第一話 | |
| 「ああ、あなたが祐麒くんね」
祐麒と同じぐらいの歳に見えるその女の子は、親しげな口調と笑顔でそう言った。
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第ニ話 | |
| 「うん、まあ……」
知り合いと言ったら、まあそうなるんだろうか。本当にちょっと知ってるだけの知り合いだったら、どんなによかったかと思うけど。
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第三話 | |
| 「そんなんじゃないよ」
思わず口をついてではのは、事実とは正反対の嘘だった。
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第四話 | |
| 「となるとこれは、運命の再開ってヤツか! 時を経て再びめぐり逢った二人、再び燃え出す恋!」
小林のヤツ、一人で楽しそうだ。
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第五話 | |
| 「そういうので嘘つく人がいるから」
そう言って無邪気な笑顔に戻ったから、昔そう言う事があったという訳ではないのだろう。
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第六話 | |
| 「ただいまー」
そう言いながら台所に入ると、何故か令ちゃんが夕食を作っていた。
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第七話 | |
| 「偉い!」
「俺も偉い!」
「あんたは違う!」
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第八話 | |
| 「懐かしいね」
「そう……だね」
祐麒は少しだけ詰まって、そう答えた。
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第九話 | |
| 「三回も?」
それは経験の差を考えても、祐麒よりハイピッチでやっている。
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第十話 | |
| 「ふーん、今度行ってみよっかな、その喫茶店」
それにしても祐巳、M駅についたのに、帰らないのだろうか。
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第十一話 | |
| 「飲みに行こうよ。今度は二人で」
ね、と見慣れた笑顔はショーウインドウから漏れた光に照らされて、いつもより魅力的に見えた。
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第十ニ話 | |
| 「でも、はぁ……告白かぁ」
祐巳はまたその時を思い出したみたいに、複雑な表情になる。さっきから料理は、一向に減っていない。
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第十三話 | |
| 「下品だな」
深くため息をつくと、かぶりを振った。
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第十四話 | |
| 「三十分って、言ったよな?」
「言ったっていうか、聞いた……」
かれこれ坂を上り始めて、四十分になる。
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第十五話 | |
| 「どうする、由乃ちゃん?」
「言っちゃってもいいんじゃない?」
いつものノリで返しながら、胸にもやもやした物が立ちこめてくるのが分かった。
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第十六話 | |
| 「ありがと」
細められた目と、儚げな唇から紡ぎ出されたその言葉に、祐麒は今度こそ縛り付けられた。
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第十七話 | |
| 「見て」
言われて見上げると、いつの間にかアーケードのように生い茂った木々の葉が切れて、星が瞬いているのが見えた。
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第十八話 | |
| 『好きだよ』
星と月の灯りを灯した瞳が笑って、かすれた囁き声が耳に蘇る。
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第十九話 | |
| 「何がいい?」
マスターは食器棚を向いたまま、由乃に言った。
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第二十話 | |
| 「お前――」
引っかかった。元々隠し事は苦手な方だったけれど、こうもまんまと引っかけられるとは。
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第二十一話 | |
| 「あ、マスターかっこいい」
「当たり前よ」
由乃が言うと、マスターが胸を張って言った。
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第二十二話 | |
| 「バカじゃないの?」
今度こそ、真正面から目が合った。
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第二十三話 | |
| 「なんで……?」
問いかけたまま由乃は顔を伏せると、祐麒の答えを待たないまま歩き出した。
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第二十四話 | |
| 「ユキチ、最近ボーッとするの好きだな」
昼ご飯を食べ終わって食堂で考え事をしていると、不意に目の前が暗くなった。
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第二十五話 | |
| 「……うん、そうだよ」
かさ、と、くず折れる音がした。震える声は涙声に変わり、嗚咽が聞こえ始める。
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第二十六話 | |
| 「お店の装飾には、最適だよね」
いつの間に持ってきていたのか、由乃は買い物籠にバサバサとスプレーや型を入れた。
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第二十七話 | |
| 「よしじゃあ、それでいくぞ。ワン、ツー」
走れそりよ 風のように 雪の中を 軽く早く。
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第二十八話 | |
| 雪を孕んでいてもおかしくないぐらい冷たい北風が、由乃のマフラーを靡かせる。寒いね、の一言で、真剣な祐麒の声も、由乃の緊張も、全て朔風がさらって行ってくれるはずだった。
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第二十九話 | |
| 「そろそろ行こうか」
祐麒はサンドウィッチの包み紙をクシャっとつぶすと、ジュースの残りを一気に飲んだ。
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第三十話 | |
| 「あのさ」
だから由乃は、反撃に出る事にした。
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第三十一話 | |
| 「いいから答えて」
見つめるのと睨み付けるのの半分ぐらいの目力で言うと、祐麒は「まあ落ち着け」と言うようにゆっくりグラスを傾けた。
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第三十二話 | |
| 「は?」
は、って。それはどっちの「は?」なんだ。何を当たり前の事をって意味なのか、何とんでも無い事を言っているんだって「は?」なのか。
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第三十三話 | |
| 「もういいよ!」
細い身体の一体どこから、そんな声が出せるのだろう――。
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