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 『白き花びら』のアフターストーリー。
 リリアンを離れて一ヵ月後の栞に起こった異変と、失われた記憶の欠片たち。
 隠された過去を追う、自分と他人のミステリー。
 
 
 
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第一章
「あなた、誰?」
「はぁ?」
 いい加減にしなさいよ、とでも言わんばかりに、赤茶の彼女は顔を歪めた。
 
第二章
「見て栞。ほら、下よ」
「下?」
 手摺に腕を乗せると、少しだけ背伸びをして川を覗き込む。その瞬間、栞は子供みたいな声で、「うわぁ」と声を上げた。
 
第三章
「……栞、駄目よ。私が迂闊だった。今日はもう帰るわよ」
 私は時々こんなことを考える。もし久保栞という人間は、意図的に作られた存在だったら? 誰かが何らかの目的で、利用する為だったとしたら?
 
第四章
「あ、ごきげんよう」
 二人の間の空気が張り詰めた瞬間を狙ったかのように、後ろからまたあの挨拶が届いた。
 
第五章
「分かっています」
 私は自分でも驚くほど、素直にそう返した。反駁する理由は探せばいくらでもあったけど、そうする必要はなかった。
 
第六章
「え? 何よ、突然」
「いいから教えて。知りたいの」
 しゃべることに問題がないならね、と付け加えると、彼女は苦笑した。風はその少しの間、凪いでいた。
 
第七章
「い、いひゃい。なにするほ」
「あんたねぇ……確信犯でしょ」
「ななな、何のことかなー」
 
第八章
「――栞!」
 その時だった。さっきまで私を走らせていた声が、耳朶を打ったのは。

 
第九章
「あっ」
 ドアを開けた瞬間、鉢合わせた人の存在に気付いて私は声を上げた。それは相手も一緒で、ショーットカットの髪をさわさわと肩に触れさせながら、彼女は胸に手を当てて驚いていた。

 
第十章
「もうすぐ咲きそうね」
 紅霞の視線の先には、綻びかけた桜の花があった。身を縮こまらせているようにも見えるそれは、後一週間もすれば柔らかい色を見せてくれるだろう。

 
第十一章
「まさか」
 まさか、まさか、まさか。
 心臓が酷く荒く脈打って、冷や汗が浮かんだ。嫌な予感に背中を押されるように、私は走り出した。

 
第十二章
「――っ!」
 ぼけっと栞の顔を眺めている暇なんてなかった。私は病室を跳ね馬のような勢いで飛び出すと、人影もまばらな廊下を駆けた。すれ違った看護士から注意の言葉が届く暇もないぐらいの速さで、病院を後にする。

 
第十三章
 落ちる、落ちる。ステンドグラスの中で涙は弾け、ガラスの割れる激しい音が聞こえた。
 それが私の聞いた、最後の音だ。

 
終章
 
 

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