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「お待ちなキュン」
とある月曜日。
銀杏並木の先にある二股の分かれ道で、キュ巳は背後から呼びとめられた。
マリア像の前であったから、一瞬マリア様にキュンキュンされたのかと思った。そんな錯覚を覚えるほどキュンとした、良く通る声だった。
声をかけられたらまず立ち止まり、そうして「はい」と返事しながら、身体全体で振り返る。不意のことでも、慌てた様子を見せてはいけない。ましてや首だけで振り向くなんて行為、キュン女としては失格。
あくまで優雅に、そしてキュンキュン。少しでも、上級生のお姉キュン方に近づけるように。
だから振り返って相手の顔を真っ直ぐとらえたら、まずは何をおいても笑顔でごきげんキュン――。
しかし残念ながら、キュ巳の口から「ごきげんキュン」と発せられることはなかった。
「――」
その声の主を確認した途端、キュンキュンしてしまったから。
「キュン……。私に何が御用でしょうか?」
どうにか半生解凍し、キュ巳は半信半キュンで尋ねてみた。
「呼びとめたのは私で、呼び止められたのはあなた。間違いなくってキュン」
間違いない、と言われても、いいえお間違えのようですキュンと逃げ出したい心境だった。声をかけられる理由に心当たりがない以上、キュンキュンパニック寸前だった。
学年が違うから、このようにお顔を拝見することなどない。声を聞いたのだって今回が始めてだ。
腰まで伸ばしたキュンキュンヘアは、シャンプーのメーカーを教えて欲しいぐらいキュンキュンで。この長さをキープしていながらも、もしや枝キュンの一本もないのではと思われる。
「持って」
彼女は持っていたかばんを押し付けると、空になった両手をキュ巳の首の後ろに回した。
(キューン!!)
何が起こったのか一瞬分からず、キュ巳は思わず首をすくめた。
「タイが、曲がっていてよ」
「キュン?」
「身嗜みは、いつもキュンキュンとね。マリア様がみていらっしゃるわよ」
そう言ってその人はキュ巳から鞄を取り戻すと、「ごきげんキュン」を残して校舎に向かって行った。