マリア様にみせてる
 
 
執筆:空我也(watcher

 
BGM 蔦子のテーマ
学生時代(ぺぎーさん)の替え歌  リリアン時代
 
蔦子の絡んだピクチャー
マリアに捧げた日
祐巳多かりし あの頃の
思い出を辿れば
懐かしいとも(彼女)の顔が 一枚いちまい浮かぶ
何の装いをせずに 撮ったあの頃
リリアンの 図書館の ノートとインクの匂い
彼女のいる窓辺
リリアン時代
 
 
 
 
 
BGMとともに登場するなんざ、後にも先にも私が初めてである、と思う。
夏休みの自由投稿、もとい、登校。今日は夏休み中だというのにマリア様の顔を拝み、先生方のありがたい話を聞き、ちゃんと健全な夏休みを過ごしているかを確認するという中間抜き打ち審査の日のようなものである。
私、武嶋蔦子、自称写真部のエースは・・・いつものように、マリア様前に来る少女たちの何気ない朝のひとときを激写していた。
 
 
ひときわ甲高い声が上がり辺りは騒然となった。
ん??ここまで夏の蝉に負けず乙女の視線および声を一身に受けるのは・・・やはり、紅薔薇姉妹!
水野蓉子様と小笠原祥子様のスールである。
いつ見ても見目麗しいお姿。
お二人が並ぶだけでそこはともて華やかになる。
リリアンのスターお二人が揃い踏み!これは何が何でも収めねば。
 
シャッターを無心に切る。
お二人は何事も無かったかのようにマリア様に手を合わせるとにこやかに「ごきげんよう」の言葉を残し去っていった。
金魚のフ○のようにくっついていく生徒もちらほら。
 
おっと、そうこうしているうちにもうお一人のスターが・・・お・・・・お祈りは?
ちらりと視線は送るもののお祈りしないで・・・通り過ぎよう・・・と、その姉の手を引き連れ戻す・・・・同級生。
いや・・・大人しそうに見えて実は頑固で強い。見掛けは西洋人形のような顔立ちで、のんびりしているようだが意外としっかりしている。
私は一目置いている。藤堂志摩子さん。1年ながら白薔薇様の妹、次期白薔薇候補といわれるだけのことはある。
 
 
さて・・・夏休みの間に大きな変化を遂げた子は・・いないわね。
夏休み前と後・・・・特にかわったこともな・・・・あ!!彼女が来た。
私はどうも彼女が気になる。
とりわけすごい取り柄があるわけではない。成績は中の中、容姿もコレといって特徴が無い。いや、失敬!特徴が無いとは、いいすぎた。なんていうか・・・普通の子なんだよね・・・コレが。
しかし・・・・なんだろう?大器晩成?いや、違うな、他の子とは何か異なるものを感じる。
こうなんていうか・・・天然?素直??・・・・16歳にもなると子どもの頃の気持ちとか、感情とか、色々忘れてしまったり落としたり無くしたりするものだが、彼女の中にはそれが見え隠れしている気がする。
 
 
 
私は頼まれれば別だか、普段は特定の誰かを意識することなく気に入った構図やリアクションがあるとシャッターを切る。
何気なく切る・・しかし・・・クラブハウスに帰り、現像すると・・・・思い知らされる。
どうしても彼女の写真が・・・多いのだ。
 
 
撮るときは、場所・時間・仲間・間といった4つの間を大切にしている私である。
どれにも気遣っているつもりであるが・・・なぜか彼女の写真が多い。彼女とは・・・同じクラスの福沢祐巳さんのことだ。
なぜあのたぬき顔の彼女の写真が多いのか。
 
 
彼女とは話はするものの、いちクラスメートというだけの関係である。とりわけ『親友』でもなければ、一緒に遊びに行く仲間でもない。
誰かのスールになっているわけでもない。クラブ活動に汗を流しているわけでもない。本当に・・・その辺りを歩く通行人Aのような存在なのだ。
何故こんなに心の中に入ってくるのか?
 
彼女は確かに色々な顔を見せてはくれる。驚いた顔、怒った顔、笑った顔、泣きそうな顔・・・いずれもが自然である。撮られていることにもしかしたら気付いてないのかもしれない。それくらい・・・自然な顔がここにはある。
私の主義として、写真は撮った時は本人に了解を得るようにしているし、ちゃんと撮った写真は渡している。
しかし・・・彼女にだけは・・・渡せていない。ううん、渡してはいるが、それは全体から言えば、1/4くらいである。どうしてほかの子と違う扱いをしてしまうのか・・・。
 
 
何故彼女にだけ・・・・。
考えると何故か胸が痛んだ。
主義に反することをしているからだろうか。それとも・・・・。
どうしたらこの持って行き場のない気持ちから逃れられるのか。
 
 
今日は登校日ということで、シスターの話が終わったら、それで解散。
用事の無い生徒は下校していた。
薔薇様方は薔薇の館で集まりがあるらしい。
クラブ活動があったり図書館へ本を返しに行く生徒は残っている。
彼女は・・・・・もう帰ったであろうか。
彼女のことを考えると胸のあたりがもやもやし、心臓の鼓動が少し早くなっていた。
 
 
 
今日撮った写真を現像していたら遅くなってしまった。
門へ続く道は夕日に照らされ辺りは赤く染まっていた。
まだまだ暑い日差しがマリア様を照らしていた。
 
 
何故彼女だけ枚数が多いのか?写真を撮りなくなるのだろうか?
考えれば考えるほど心臓は早く脈うち、身体の中心が熱くなる気がした。
この想いは何だろう?
持って行き場のない感情に苛立ちも感じ始めた。
 
ああ、このままでは私の後半の夏休みが・・・・!!
マリア様を見上げ、私はおもむろにかばんから写真を取り出した。
今日まで撮った彼女の写真を・・・1枚ずつ彼女に見せた。
懺悔のつもりだったのかもしれない。
 
 
マリア様は何も言わずただ黙って・・・微笑んでいた。
彼女に見せることで何か落ち着いた気持ちになった。
この想いは・・・疑問は・・・果たして解決する日が来るのであろうか。
 
 
 
 
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