■ DIVE!
 
 
 
 
 今日はお姉さまと夏祭りに行く日です。約束の時間に間に合うためには、
そろそろ出発しないといけないのだけど、私は悩んでいた。
 
「これは、どう考えても小さいよね・・・。」
 
 鏡に映った自分の姿をもう一度確認する。
そこにいるのは、一匹の座敷わらし。
 
「菫子さ〜ん。この浴衣、小さいよ〜。」
「そりゃ、悪わかったね。リコはあんまし成長して
ないみたいだから大丈夫だと思ったのよ。」
 
 菫子さんは、姿を見せず声だけで答える。この小さい浴衣で
行くか、普通の服に着替えるか。再び、鏡の自分を見てから、
乱暴に浴衣を脱ぎ捨てて、急いでいつもの服に着替えた。
 
「行ってきま〜す。」
「お姉さまと楽しんできな。」
 
 菫子さんに一声かけて、私はマンションを飛び出した。今日の待ち合わせ
は、お姉さまの家。電車とバスを乗り継いで、待ち合わせ時間ギリギリに
なんとか到着。ダッシュで石段を駆け上がる。
 
「こんばんは。リリアン女学園1年、二条乃梨子です。」
 
 しばらくすると、寺の人が出てきてくれた。聞いてみると、お姉さまは
手が離せないらしい。今から夏祭りに出かけるというのに、えらいなあ。
入学して間もない頃に、弥勒像を見た部屋に案内された。しばらくすると、
襖が開いてお姉さまが入ってきた。
 
「ごめんなさい。やっと頼まれていた用事が終わったところなの。
今から準備するから、ついてきてちょうだい。」
 
 お姉さまの後について奥へと進む。部屋に入ると、お姉さまは
壁にかけてある浴衣を手にとると、着ている着物に手をかけた。
その様子をじっと見つめる私。ふとお姉さまと視線が合う。
 
「その・・・。今から着替えるから・・・。」
 
 うわぁ。私ってば変態さんだあ。いくら姉妹でも、着替えは
見るものじゃないでしょ。慌てて、障子を開けて廊下に出た。
お姉さまの部屋から、衣擦れの音が聞こえてくる。この障子の
向こうで、お姉さまが着替えてるのか・・・。なんとなく視線を
移すと、部屋の明かりで着替えているお姉さまのシルエットが
見えた。ただの影なのに、私は見てはいけないと思って、
顔を両手で隠した。しかし、好奇心の方が勝ってしまう。
指の隙間からチラチラと覗き見してしまう。シルエットのお姉さまは、
どうやら帯を結んでいるみたい。もうすぐ着替えが終わってしまう。
その瞬間、私の中で何かが弾けた。ごめんなさい。マリア様。
乃梨子は悪い子です!これも全て夏という名の悪魔のせいです!
 
 私は、障子を開けると、帯を結んでいるお姉さまに
向かって、ルパンダイブ!!
 
「し〜ま〜こ〜しゃ〜ん!!」
「ちょっと乃梨子?!」
 
 豹変した妹を見て、驚くお姉さま。空中で器用に服を
脱ぎ捨てると、下着姿でお姉さまを押し倒した。
 
「駄目よ。乃梨子・・・。こんなところで。」
「大丈夫です。全部は脱がしませんから。」
 
 脳みそが溶けてるようで、言ってることも意味不明。これでお姉さまと
あ〜んなことやこ〜んなことして楽しめる〜と思っていたけど、
それは甘かった。2年にして白薔薇を受け継いだお姉さまは、
伊達ではなかった。
 
「お楽しみは、祭りの・あ・と・で(はぁと)」
 
 上目遣いで、鼻の頭をつっつくという心憎いオマケつき。お姉さまの
表情があまりにも艶っぽくて、私は大量の鼻血を吐き出して、
その場に倒れた。
 
「乃梨子?大丈夫?乃梨子!」
 
 お姉さまの膝枕を感じながら、私は夏に感謝していた。
夏よ、ありがとう。私はこの夏を一生忘れない。
 
 
(終わり)
 
 

 
 
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