■ 佐藤聖のヤバい夜這い〜志摩子編〜
 
 
 
 
暑い。夏ですもん。
なんかどうしようもなく暑い。
汗とか汁とかあと汁とかが、体中の毛穴という毛穴からだくだく染み出てくる。
クーラーが壊れた私の部屋は灼熱地獄へと化していた。
修理に来るのは明日らしい。ヤマ電め。
気温計をみるとすわ34度。
せめてこの熱帯夜を埋めるささやかな楽しみさえあれば気を紛らわせるのに____。
ちっとも頭に入らない古典のテキストを机の上に放り投げた。
その瞬間私の目に飛び込んだ単語。
 
「よばい」
 
YOBAI。
ちょっと発音よさげに外人ぽく言ってみたが、「夜這い」だ。
「夜、恋人のもとへ忍んで通うこと。特に、男が女の寝所に忍び入って情を通じること。(大辞泉より)」
ふと小学校時代授業中にエロい単語ばかりひいてシスターに怒られたことを思い出す。
今や夜這いなんて言うとひどく野蛮な行為に聞こえるが、平安時代の日本においては貴族が行う当たり前の恋愛ステップだったのだ。このテキストどおり、「光源氏」の光の君だってやっている。
そうよ私は佐藤聖。腐っても上流階級。貴族の嗜みである夜這いを私が試みても何の間違いもないだろう・・・・・。「男が女の寝所に忍び入って」という部分、ちょっと間違ってるけどね!
そう思うが早いか私は外に飛び出していた。おもしろい夜になりそうですねマリア様。
 
 
まず志摩子の家に向かうことにする。
畳の上に敷かれた布団の上で寝息をたてる志摩子は、さぞや天使のようなかわいらしい寝顔だろう・・・よだれをダラッダラ垂らしながら志摩子の実家のお寺へブーブーを走らせる。途中人を軽く2,3人轢いたくさいがかまわない。待っててね志摩子待っててね志摩子。
お寺に辿り着き階段を5段飛ばしでかけあがり息を切らしながら縁側に回りこむ。以前家にお邪魔したことがあるので、私は志摩子の寝床を正確に把握している。縁側の窓をそっと開けて猫のように忍び込む。寝室には誰一人いなかった。替わりに坊主頭のオヤジがごおごおといびきをかいている。靴下を脱ぎ彼の鼻の頭にそっとかぶせ部屋を出た。背後でむせる音といびきが交互に聞こえる。おやすみなさいませお父様永遠に。
 
 
「志摩子はどこに行っちゃったのかなぁ」
しばらく家の中をうろついてみたが見つからない。そのうち薄暗い寺の中が気味悪くなって耐え切れず境内に出た。今日は泊まりでどこかに出かけているのかもしれない。
「不発か・・・」
ひきあげようと思ったその時、ふいに奇妙な音に気づいた。
何回も何回も同じ音がしている。
カーン、カーン、カーン、カーン。
しばらく耳を傾ける。
カーン、カーン、カーン、カーン。
空耳ではない。
はて、これは何の音かしらん。私は音のする寺の裏の森へ近づいてみる。
だんだん音が大きくなる。音源に近づいているようだ。
木陰からそっと森の中をうかがってみるとうきゃあああああああああああああああ
必死で口を押さえて悲鳴をこらえるがちびった絶対2、3滴ちびった。
そこには白装束で木の幹にひたすら釘を打ち込む志摩子の姿。
これって丑の刻参りですよね・・・・遠くなる意識。
だめだここで気を失ったら私は呪い殺される。なんかそんな気がした。
逃げよう。しかし腰が抜けて動けない。
泣きながら人差し指と中指をおでこにつけて「瞬間移動!瞬間移動!」とやっていると「志摩子さーん」という声がした。
「あら、乃梨子。ごめんなさいね、そろそろ交替かしら」
「あんまり根つめないでね。こんな夜中まで」
「だってせっかく乃梨子が『二人で仏像作ろう』って言ってくれたから私嬉しくて・・・そうね、ゆっくりやりましょうか」
志摩子の傍らにはおかっぱの少女が立っていた。よく見てみると志摩子の手に握られているのは釘ではなく彫刻用のノミだ。
いい妹ができたね志摩子・・・・目頭にこみ上げるものをこらえながらお寺を後にした。
_____とりあえず一度家に帰ってパンティを着替えることにしよう。
 
 
<つづく>
 
 

 
 
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