■ 聖さまのいた白薔薇
 
 
 
 
(これは、ハードだ・・・・)
時刻は深夜2時をまわった頃。
古い温泉街の外れ、小さな旅館に乃梨子はいた。
普段は日帰りの教会巡りも、夏休みということで今回は一泊旅行なのだ。
(に、しても今回は・・・・)
まず朝、いきなりラッシュアワーに巻き込まれた。
夏休みで学生が少ないと計算していたのに、実際は人の波。
漬け物か押し寿司かというほどに押された。
そして、乃梨子の顔の前には志摩子さんの胸。
「この大きさ、この弾力。
 まさしくこれは至高の逸品!」
海原雄山ならこう表現するだろう。
なぜ海原雄山なのかは乃梨子も知らないが。
それ以前に、中年オヤジが志摩子さんの胸に触れた瞬間、死あるのみだ。
(あぁ・・・私と志摩子さんの違いの原因って何?
 ギンナン食べたら、あんな胸になれるっていうの!?)
そして、その胸・・・じゃなかった、志摩子さんがわずか数センチ先で寝ていたりする。
旅館へ予約の電話をした時、確かに乃梨子はツインルームと伝えたはずだ。
なのに、なぜか用意されていたのはダブルルーム。
しかも他の部屋は全て満室。
(眠れん・・・・)
魅惑の胸・・・ではなく、志摩子さんと同じベッドなのだ。
しかも浴衣。
(志摩子さんは・・・熟睡中。
 ちょっとくらい夜這いしてもいいかな?
 ・・・いいとも!?)
一人で笑っていいともゴッコをしてしまうあたり、混乱はかなりのもののようだ。
(夏は魔物です。
 真面目な妹も狼に変身してしまうかもしれません。
 これからはウルフガンティア乃梨子と呼んでください。
 ネコミミではなく狼ミミというのは斬新かもしれません。)
何だかドラゴンクエストあたりに出てきそうな名前である。
ちなみに、志摩子の姉も狼と名乗り、赤ずきん祐巳に手を出しまくったことを乃梨子は知らない。
とにかく、ソフトボールというかバスケットボールというか。
乃梨子よりも大きいそれは、無防備にも数センチ先で規則正しく上下しているのだ。
(バスケットボール・・・左手はそえるだけ。)
安西監督の教えが脳裏をよぎる。
実際に添えたら悲鳴をあげられそうだが。
 
 
「あれ、志摩子さん。」
「祐巳さん。」
ある昼下がり、ブラリとM駅前まで買い物に出かけた祐巳は志摩子さんに出会った。
「昨日、旅行から帰ってきたんだって?
 乃梨子ちゃんとの旅は楽しかったでしょう。」
「そうね。
 目的だった教会にも寄れたし、天気も良かったし。
 それに何より・・・・」
志摩子さんはどこか嬉しそうな表情で空を見上げる。
「乃梨子ったら少し寝相が悪いのよね。
 浴衣なのに・・・・」
「そうなの?」
「ええ。
 胸はかわいいし足はきれいだし。
 太ももから足首のラインなんて、もう最高。
 ”夏休み 乃梨子のブラは チェック柄
  思わず見とれて 胸キュンする朝”」
究極の逸品を見つめる鑑定士のような目。
(聖さまの影響かな・・・・
 絶対にそうだろうな・・・・)
とりあえず祐巳は、景さまの下宿にいるであろう聖さまに苦情を言いに行くことにした。
 
 

 
 
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