■ 激闘
 
 
 
 
チュンチュンと雀の鳴き声が聞こえる。
さすがに自然の多い小笠原家、世間の喧噪とは距離がある。
「ふぅ・・・・」
上半身を起こすと、軽く伸びをする。
時計を見ると、日が出てからまだ間もない時刻だ。
「すぅ・・・・」
横を見ると、規則正しい寝息を立てる祐巳ちゃんの姿。
普通だ。
頭と足が逆転しているとか、祥子の胸枕で寝ているとか、パジャマが怪獣の着ぐるみになっているとか。
そういうのを期待していたのだが。
「それにしても・・・・」
普段の祐巳ちゃんもかわいいが、寝顔は寝顔でグッジョブ。
「お姫様は王子様のチューで目が覚めました。
 めでたしめでたし。」
「めでたくありません。」
聖は飛んできた枕を片手で受け止める。
「あ、起きてたの祥子。」
いや、起きていることくらい気がついていた。
だからこそセクハラギガンティアに変身したのだ。
やはり祥子は祐巳ちゃんが絡むと反応が面白くなる。
「起きてたのじゃありません。
 白薔薇さま、祐巳に何をしようとしていたんですか。」
「何って・・・チューとか。
 さらに低血圧で朝が弱かったら、それ以上のことも。」
「私の家で夜這いなど許しません。
 ふしだらな。」
うむ、冗談が通じないところがさらに面白い。
「それにしても・・・おかしいわね。」
「おかしいのは、あなたの思考回路です。
 一度ブラックジャック先生に配線をいじって頂いた方がいいんじゃありませんか?」
「待って。
 祥子、あなたって寝起きが弱かったはずよね。
 ここまで対応できるということは・・・いつから起きていたの。
 と言うか、祐巳ちゃんのチューを狙っていた?」
祥子の顔が真っ赤になる。
うむ、図星か。
無防備な唇に胸キュン、て言うか比翼連理?(byアンゴル・モア)
男女じゃないけど。
「わ、私は白薔薇さまが祐巳にいたずらしないか心配で起きていたんです。」
「そう。
 だったら部屋の隅っこに長椅子持ち込んでさ。
 そこで”ディーフェンス、ディーフェンス”って祐巳ちゃんを応援してなよ。」
「何ワケ分からないことを言っているんですか!?
 そんなの意味ないじゃないですか!」
「控えを侮る人間は控えにやられるわよ。
 副主将メガネ君を侮ったから、田岡監督は夏を失ったのよ。」
遠い目の聖。
一方、祥子は頭を抑えつつ立ち上がる。
「分かりました・・・・
 では、その控えがセクハラ大魔王の野望を粉砕してくれますわ。」
「いいわ。
 最終兵器祥子を撃墜して、祐巳ちゃんとセットでチューよ。」
「お姉さまに言いつけますわよ?」
「蓉子が怖くて白薔薇さまが出来るか。」
寝ている祐巳を挟んで、聖と祥子は対峙した。


「これは一体・・・・」
目覚めた祐巳の第一声。
それは大の字になった聖さまと、髪をふり乱して俯(うつぶ)せに寝る祥子さまを見たときである。
掛け布団は蹴飛ばされ、枕は部屋の隅に転がっていた。
「お二人とも寝相が悪いんだ・・・・」
風邪をひくといけないので二人を布団に戻しつつ、祐巳はそう思った。
なお後日、祥子さまは正月のことを「過去最大の激戦」と述懐したという。
また聖さまは祐巳のことを「祥子が踏んでも目覚めない」と語ったのだった。
 
 

 
 
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