■ 七夕の夜
 
 
 
 
「お姉ちゃん、こんなとこにいたんだ」
あたしが振り向くと、そこにはお盆を手にした妹が立っていた。
「どう、1杯?」
「天の川を肴に冷酒をクイッとって?」
あたしはニヤリと笑う。妹は隣に座ると、2つのお猪口に注ぐ。
「久々だよね。2人で飲むの」
「そうね。今回みたいに同窓会でもないと、ここに戻って来るなんてなかなか無いからね」
「それに、いつもはお義兄さんもいるからね」
「確かに」
クスクス笑い合った後、あたしはお猪口を七夕の空に向かって掲げる。
「では、久々のあたしたち姉妹と、天上の2人の再会を祝して」



「ユキチ、こっちだ」
間接照明の洒落たバーのカウンターでも、柏木優という男は目立っていた。
「急に呼び出して悪かったな」
「いや、今日と明日はリコ、同窓会のために実家に行ってるんで」
祐麒は優の隣の席に着くと、バーテンダーに『ラムコーク』と言う。
「で、話って?」
「単刀直入に聞くけど、ユキチは乃梨子ちゃんとの結婚を決めたのは、いつだった?」
「同棲し出してからなら、大学を卒業して半年したぐらいだったかな」
優の求めるものを察して、祐麒は答えた。
「そうか……」
「まぁ、2人で稼いだお金で式を挙げようって決めてたから、実際に結婚するまで1年かかりましたけどね」
祐麒は差し出されたカクテルを口にする。
「ついに決心がついたんですか?」
「あぁ、あいつの背負っているものを背負えるのは、祐巳ちゃん以外には僕しかいないからね。それ以上にあの時、僕は自分が楽になろうと、祐巳ちゃんに『答え』を教えようとした罪がある」
しばらく2人の間に沈黙が流れる。
優のグラスの氷が溶けて、カコンッと音を立てる。
「……やっぱり敵わないな。周りにどう言われようと、自分が決めた道を突き進むんだから。たとえそれがいばらの道だと知っていても」
先に口を開いたのは祐麒だった。
それに対して、優は静かに話し出す。
「妹同然の娘を好きになって、慕ってくれる婚約者の従姉妹に、自分は同性愛者だと言う嘘まで吐いて諦めさせて、それを隠してきたんだから」
そこまで言うと、優はグラスを置く。そして決意をした表情を祐麒に向けて言う。
「だから、僕はあいつを、瞳子を幸せにしなければならない」



「……出ない」
瞳子は5回目のリダイアルを切ると、部屋の主にそう告げた。
「仕方ないから、今日はうちに泊まれば?」
「えぇぇぇっ。泊まったら、可南子に食べられそうでイヤですわ」
「あたしは肉食のケモノですか」
「え、ケダモノでしょ?」
「ほぉ〜、瞳子はそんなにあたしとラブラブしたいんだ〜〜」
そう言って、可南子は瞳子を引き寄せる。
「まぁ、たまには彼氏じゃなくて、あたしと一晩中話し合っても良いじゃない」
「……はぁ、仕方ないですわね。付き合ってあげるわ。それに今日は七夕だから、星でも見ながらね」




あとがき

てな訳で、七夕です。
ごきげんよう、川菜平太です。
今回は3年連続の七夕ネタ&前作のネタばらしSSとなってます。
では、改めて答え合わせを。
大多数の方が正解だと思いますが、正解は柏木優です。
ブログや某SNSで解答をいくつか貰いましたが、全員が柏木と答えてましたね。
まぁ、あんだけヒントを書いて、小林や高田じゃ問題ありますからね。
一体、柏木はどんな場所にキスマークをつけたのやらw
では、また。
 
 

 
 
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