■ スペシャルプレゼントスマイル
 
 
 
 
放課後の部室。室内にはあたしと笙子しかいない。
「笙子」
「なんですか、蔦子さま?」
奥で機材を点検していた笙子がこっちに近寄って来る。
「これ、笙子に貸してあげるわ」
そう言って、あたしは手に持っていた、小さなカメラを笙子に差し出した。
「これって……」
「あたしが中学の時にお年玉で買ったカメラなんだけど、そろそろ笙子もこういったカメラを使って
撮影する時期だと思うのよ」
差し出したカメラを笙子が手にとる。
「あたしがいま使ってる物より、ちょっと重いですね」
「そうね。丁寧な造りだからね。これが発売されたのは16年前だけど、下手な最新機種より性能は
良いわよ」
あたしは手にしていたカメラを笙子に向ける。
「蔦子さま、フィルム入ってないカメラじゃ、あたしもさすがに逃げようとしませんよ」
「あら、気付いてたの?」
「さっきバラシていたのを見てましたから」
「ちっ、やられたわ」
「フフフ。では、大切にお借りいたしますね」
笙子は手にしたカメラを自分のカメラバックに入れる。
あたしはそれを確認すると、カメラ(相棒)を持って立ち上がる。
「ちょっとカメラをならしてくるから」
そう言って、出入り口まで行ったとこで、笙子のほうを振り返る。
「あっ、笙子。カメラにフィルムを入れっ放しだから、撮り切ったら一緒に現像しといて」
「良いですけど。それにしても蔦子さま、入れっぱなしにするなんて珍しいですね」
「まぁ、撮ったのは少しだし、笙子には撮れない被写体だから」
笙子はあたしの言葉の意味が判らないようで、チョコンと首を傾げていた。


翌日の放課後


「つ〜た〜こ〜さ〜ま〜」
「あらあら。可愛いお顔が強張っていてよ、笙子」
「ズルいです。こんな写真、ズルいです」
笙子は由乃さんが令さまにやるように、あたしをポカポカと叩く。
「ズルいって、この写真のどこがズルいの?」
あたしはヒラリとかわして、笙子が手にしていた写真の一枚を取り上げて突き付ける。
笙子は俯き、顔を真っ赤にしながら呟く。
「……しの笑顔の写真です……」
「なに?」
「もう、蔦子さまの意地悪!!あたしの笑顔ばっかり撮ったこの写真がズルいって言うんです!!し
かも全24枚全部も!!」
そう言うと、笙子はあたしの胸に飛び込んで来る。


「一応、ホワイトデーなんだけどな」
「へぇっ?」
「昔、『バレンタインは宣戦布告の日で、ホワイトデーは決着を付ける日』ってテーマのフォト特集
があってね。その特集とリンクしてたのが笙子に貸したカメラなの。あと、気付いてた?入ってたフ
ィルム、バレンタインに笙子がくれたのだったのよ」
「そう言えば……」
蔦子は笙子の頭をポンポンと叩く。
「そんなことじゃ、あたさにはまだまだ追いつけないわよ」
「絶対に負けないんですから!!」
笙子は頬を膨らませて言い返す。
「ふふふ。やっぱりあたしが弟子と認めただけはあるわ」
そう言う蔦子の表情は、祐巳たちには見せた事のない、笙子の為だけの微笑みだった。






蔦子なら、バレンタインに貰ったフィルムを活かしたホワイトデーの返しをするのではと思い、こう
なりました。
カカオ30%ぐらいの甘さに仕上げるのを目標にしたんですが、皆様、どうですか?
 
 

 
 
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...Produced By 川菜平太