■ ラヴ・アクセル
 
 
 
 
「乃梨子さん、大変!!校門に真っ黒なバイクに乗った男の人が」
乃梨子が薔薇の館に行こうと準備していると、クラスメイトが教室に駆け込んできた。
「大学の人間を待ってる可能性もあるんじゃ……」
「今日は大学、全休講だよ」
その情報に、乃梨子は大きな溜め息を吐く。
「最近、こういう事が多いなぁ……。申し訳ないけど、薔薇の館にも連絡行ってくれないかな」
そう言うと、乃梨子はカバンを持ってイスから立ち上がる。


「まぁ、普通はまず最初に薔薇の館に連絡が行くわよね」
校門に着くと、すでに瞳子と菜々、そして噂を聞きつけた新聞部の日出美と、写真部の笙子が到着し
ていて、バイクの人物を注目していた。
ヘルメットのバイザーを上げた表情から、彼は乃梨子たちと同じぐらいの歳に見える。
そして、跨がった大型バイクが中型に見えるぐらいの長身である。
「誰かを探している、または待ってるみたいですね」
「そうですわね。探している比率が高そうですけど」
「今のところ、生徒に危害を与えそうな感じは無いし、それほど実害はなさそうだから、しばらく様
子……」
「を見る?」と隣りの2人に乃梨子が言いかけた時、後方からオレンジ色をした物体が、物凄い勢い
で飛んで来るのが目に入った。
「危ないっ!!」
とっさに乃梨子は自分の方へ2人を射線上から引っ張る。
瞳子と菜々に当たらなかったオレンジ色の物体は、そのまま件のバイクの人物に向かって飛んで行き
……


バシッ


……まるで勢いがなかったかのように、バイクの人物によって軽々とキャッチされた。
「可南子っ!!」
乃梨子は物凄い勢いで飛ぶオレンジ色の物体―バスケットボールを投げた親友に怒鳴る。
しかし、可南子は乃梨子の抗議など聞こえないかのように、バイクに向かって歩いて行く。
「他の人間なら、手首とか痛めてるよ」
バスケットボールを可南子に軽く放り返しがら彼は言う。
「……何やってるのよ、由貴くん。明らかに不審者よ」
「ここで待ってるのが一番捕まえやすいって、先輩に聞いてさ」
可南子は「はぁ…」と溜め息を吐く。
「可南子、知り合いなの?」
様子を見ていた瞳子が可南子に問い掛ける。
周囲にはいつのまにか野次馬による人垣が形成されている。
「まぁ、一応ね…」
そこに、日出美がやってきて、彼に尋ねる。
「はじめまして。私、リリアン女学園新聞部部長の高知日出美と申します。失礼ですが、名神高校の
松岡由貴くんですよね?」
「はい、そうです」
彼――松岡由貴は爽やかに返事を返す。
「日出美さんも彼のこと、知ってるの?」
瞳子の言葉に、日出美は指をチッチッと横に振る。
「顔と名前、簡単なプロフィールぐらいなら、あたしどころか、世間の人でも知ってるわね」
そこまで言って、菜々が判ったとポンと右手をグーにして、ポンと左の掌を叩く。
「名神高校のインターハイ5部門制覇の立役者の1人で、バスケ日本代表の」
「そう。あの松岡由貴くん」
「そんな大物がなぜここに?」
瞳子の問いをきっかけに、各自の視線が由貴に、そして可南子に注がれる。
「知り合いだよな、可南子ちゃん」
「そうね。あとは関東選抜で同じぐらい?」
そう話す2人に、乃梨子は微妙な違和感を感じる。
「さっき、瞳子は『なぜここに?』って尋ねたんだけど、どうして関係について話したの、お2人さ
ん?」
乃梨子は微笑みながら2人に聞く。ただし、言葉に込められた意味は、180度違うものだったが。
「それは……」
「それは?」
先を促す乃梨子に、可南子は言い淀むように口を閉ざす。
「……この状況で誤魔化すのは無理だとおもうよ、可南子ちゃん」
可南子の肩をポンと叩いて由貴が言う。
「でも……」
「良いさ、別に困ることでもないし。みんなが想像している通りではないけど、簡素に言うと俺と可
南子ちゃんは付き合ってる」
雰囲気で薄々感じていたが、それを認める発言に、人垣では様々な反応が起こる。
「リリアンのクールビューティーと呼ばれる可南子さんに彼氏がいたなんてね」
そう言いながら、笙子は2人の写真をバンバン撮る。
「ちなみに、お2人の出会ったきっかけは?」
間髪置かず日出美はインタビューを敢行する。
校門の周囲は異常な事態になっていた。
「はいはい、みんな。分かれた、分かれた」
乃梨子が周囲の野次馬を解散させる。
「可南子、松岡くん、ついて来て。あっ、バイクはそこの来客駐輪場に置いといて良いから」


薔薇の館に2人を連れて来ると、改めて2人に経緯を聞く。
ちなみに、室内には2人の他に、住人である乃梨子、菜々、臨時要員である瞳子と、日出美、笙子が
いる。
「出会ったのは関東選抜の選考会で、フリースローの練習をしていた可南子に、その様子を見ていて
アドバイスしたことがきっかけ。その時はそれだけだったんだけど」
「その2週間後にツーリングに行ったんだけど、その時にバイクが不調を訴えてね。それでどうしよ
うか頭を抱えてた時に…」
「うちの兄貴が可南子ちゃんを発見して、うちに連れて来たんだ。うちの実家、バイク屋をしてるん
で」
「メンテナンスで通ってて、何度か顔を合わせるようになって、普通に話せるようになって、そのう
ち由貴くんたちがツーリングに行く時に、仲間に入れてもらうようになってね」
「何度か一緒に走るうちに、なんとなく可南子ちゃんが気になるようになって。そこら辺はしっかり
しないといけないと思ったんで、まずは親しい友人からってお願いしたんだ」
その言葉に、乃梨子はパチパチと手を叩いた。
「なかなか漢ね」
「そんな態度を取られたら、普通の女の子なら一発KOですよね」
続いて菜々がフムフムと頷きながら言う。
「ただ、可南子ですから……」
「瞳子には言われたくないわね。さすがにそうやって言われると、あたしも突っぱねる訳にいかない
から。まぁ、そんな訳で今は『親友』として付き合ってるの」
そう言うと、可南子は優雅な動きで紅茶を口にする。
「……なんだか、祥子さまみたいな、勝ち誇ったオーラが出てるわね」
可南子の様子を見て、それまで話の輪に加わってなかった日出美がつぶやいた。



「今日はお騒がせしてすみませんでした」
大きな体を小さくしながら、由貴は見送りに来た乃梨子たちに頭を下げる。
「まぁ、あそこは人通り多いですし、花寺の人とかも待ってたりしますから…」
そう言うと、乃梨子は由貴に耳を貸すようにジェスチャーする。由貴は少ししゃがんで頭の高さを乃
梨子に合わせる。
「…なんで、目立ちたくないのなら、少し行ったとこにある公園で待ち合わせしたら目立ちませんよ
。実証済みです」
そう言って離れた乃梨子は、由貴に親指を突き出して立てる。
「そんなところで待ち合わせてたのね」
「バレるまでね。バレたあとは堂々とデートしてるでしょ?」
「ハイハイ、胸焼けしそうなぐらいのあま〜い様子を見させてもらっていますわ」
胸を押さえるような仕種で言う瞳子の頭に、乃梨子はチョップを放つ。
「とにかく、目立つと後々面倒なのは確かですから」
「そうですね。うちの藤田や水上ほどじゃないですけど、可南子ちゃんもファンが多いみたいですか
らね」
その言葉に、リリアンの特殊性をよく理解していると、乃梨子たちは苦笑する。
「まったく、可南子には最高の相方ね」
乃梨子の呟きに、瞳子も菜々も頷いた。



「ふーん、そんな事がね」
「可南子の本質というか、強気なんだけど、時々かなり乙女な部分をガッチリ掴んでる感じだったな
ぁ」
駅前の喫茶店でお茶を飲みながら、乃梨子は先日の話をする。
「俺も、可南子ちゃんにとって、良い人に巡り逢えたんじゃないかって思うな」
「そうだね」
「と言うか、可南子ちゃんがべた惚れなんじゃないかな?」
「そう?」
「なんかね、そんな感じがする」



「ハクシュンッ」
「大丈夫、可南子ちゃん?」
「うん、大丈夫」
そう言って、可南子は膝に置いている由貴の頭を撫ぜた。







あとがき

ツンデレキャラが墜ちる時はトコトン墜ちてくのが常です。
てな訳で、簡単な可南×由貴の馴れ初め。
絶対に可南子は好きな人が出来たらこうなる気がします。
と言うわけで、苦情はうちのブログへどうぞ。
 
 

 
 
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