■ GIRLS・DAYS
 
 
 
 
「今日は、バスケの秋期地域大会準優勝のインタビューと、
軽音部の『華音』がクリスマスに花寺の軽音部と合同ライブをK駅前のライブハウスでする事に関した事がメインよ」
 真美の言葉に日出実は頷く。
「バスケの方は部活後が良いとの事だったので、軽音の方から行きましょう、お姉さま」
「そうね、ここからは軽音の方が体育館より遠いしね」
 そう言って、2人は部室を出る。
そして周囲に誰も(特に蔦子が)いない事を確認すると、どちらかともなく手を繋いで歩き出す。

「笙子、いま光度計持ってない?」
「どうかしたんですか?」
 撮影バックから光度計を取り出して蔦子に渡しながら、笙子は心配そうに尋ねる。
「うーん。ここ最近、この子を使う頻度が低かったから、メンテナンスが甘かったみたい。ちょっと
調光が狂ってるみたい。カメラはギリギリまで絞って25なんだけど、実際は15なんだよね」
 蔦子はズレた眼鏡をかけ直すと、自分のバックから予備のレンズを出す。
「どうですか?」
「…ダメ。レンズじゃなくて、本体側がおかしくなっちゃってる。今から部室戻るには時間がないし
ね。笙子、今日の撮影は任せるわ」
 尊敬し、大好きな人から言われたその言葉が、笙子は嬉しい。
「はい!!(カシャッ)」
「ちょっと、何撮ってるのよ」
「『リリアン写真部のエース』が困っている姿です」
「全く…。誰に似たのか…」
「ふふふ、『リリアン写真部のエース』のお姉さまです」
「こっのー。そんなこと言うヤツには、こうしてやるー」
 蔦子は笙子に襲い掛かり、ふわふわの髪をクシャクシャにする。
「うわー、何するんですか!!」
「あたしを撮った罰よ」
 笑顔でそう言いながら、蔦子はポケットから櫛を取り出し、自分がクシャクシャにした笙子の髪を研ぐ。
対する笙子も黙って蔦子に髪を研がれる。その表情は少しはにかんでいるように見えた。
 これが、今の2人の距離。

「鯨、パスッ!!」
「可南子っ!!」
 ゴール前にループショットでボールが上がる。ディフェンスが動けない中、
ポニーテイルをなびかせた長身の少女がボールを空中でキャッチし、そのままリングに叩き込んだ。
 そこでタイムアップの笛が鳴る。
「ナイシュー、可南子さん」
「可南子さま、すごい…」
 ギャラリーから感嘆の声が上がる。
 ディフェンス側のセンターをやっていたゲームキャプテンが可南子に声を掛ける。
「可南子さん、いい調子ね」
「大会の頃と比べると、ちょっとシュートが落ちるんですけど、調子は良いですよ」
 可南子は優しい表情で笑う。
「にしても、本当に良い表情で笑うようになったね。やっぱり祐巳さんの影響かな?」
「うーん。影響というより、祐巳さまの脳天気が感染したのかも?」
 本当は他にもあるのだが、一番の原因は祐巳である。可南子はそれを自覚しているからこそ、茶化してみた。
「あー、あとで新聞部のインタビューで『うちのスーパーサブは紅薔薇の蕾の脳天気菌に感染してるんです』って言ってやろ」
「それはやめて下さいよぉ。小笠原家の総力を上げて紅薔薇さまに殺されかねませんから…」
 2人は声を上げて笑わった。

 駅前にひっそりとある喫茶店。
「あっ、リコ。ここだよ」
 祐麒は手を挙げて乃梨子に合図を送る。
「いいお店ね。雰囲気がすごく落ち着いてて」
 祐麒の向かいに座ると、乃梨子は店員にオレンジペコーとスコーンを頼む。
「こじんまりとした喫茶店だしね。コーヒーもすごく美味しいし、本当にコーヒーや紅茶が好きな人
が来るお店だね」
 2人が話していると、店員がやって来て、乃梨子のオーダーを置いて立ち去ろうとして、乃梨子の制服に気付く。
「あら、リリアンの制服じゃない。彼氏さんは花寺だし」
 店員は「懐かしいわ」と言って2人を見る。
「リリアンのOGかなにかですか?」
「そうなんですよ。で、うちの人は花寺出身だから、なんだか昔を思い出すと言うかね」
 他のお客に呼ばれたので「ごゆっくりね」と笑顔で言い残すと、店員はそちらへと行ったので会話はそこで終わった。
「良いなぁ…」
 ポツリと乃梨子がこぼす。
「何が?」
「だって、最低でも高校時代からの付き合いで、今は結婚されてるって事でしょ?だからね…」
 なんとなく乃梨子の言いたい事が祐麒にもわかった。
「俺たちも、ああいう風になれたらいいな」
「そうだね」
 お互いに恥ずかしい事を言った事に気付いて、2人はしばらく黙ってお茶を飲んだ。

『菜々、映画観に行こうか?』
 由乃のその一言で、菜々はK駅前にいる。
 黒のコートの中は白のフリースセーターと膝丈の黒のスカートという格好で、今日のデートに対する菜々の意気込みが伺える。
「菜々、お待たせ」
 しかし、やって来た由乃の格好を見て、菜々は己の敗北を悟る。
 男物の白いトレンチコートに、中は黒のタートルネック、タイトな黒いミニスカートに黒いロングブーツ。
普段三つ編みにしている髪はキャスケットの中にまとめ、唇には赤いルージュという姿。
 その格好良さに、誰もが思わず見とれてしまう格好だった。
「どうよ、驚いてくれた?」
「はい、完全にやられました。格好良過ぎです」
「そりゃそうよ。あたしの大事な娘だもの。格好良くなくちゃね」
 エッヘンという感じに胸を張る由乃。
「まぁ、すぐそばにミスターリリアンという、見本がいますからね…」
「個人的には色々言いたい事はあるけどね。っと、今11:50か。では、腹拵えでもしますか。次の上演まであと1時間あるし」
「今日はそばとかは止めましょうね。この格好に合わないですから」
 菜々はこの格好でそばをすする由乃を想像する。
「判ってるわよ。もちろん、ラーメンも食べない。今日はピザの食べ放題に行くわよ」
「はい。ところで映画はなに観るんですか?」
「『壬生狼の咆哮』だけど」
 由乃はルンルンで劇場へ向かい、観終わった後も熱く武士とはなにかを菜々に語った。
 そして、菜々に言い寄ろうとする男たちには、ゴルゴ13やディーン・リガール並の殺気をぶつけて歩いた。
 こうして菜々は由乃に守られ、そして由乃色に染められていくのであった。






あとがき(という名のネタばらし)
 由乃さんは自己主張が強いです。
 ごきげんよう、川菜平太です。
 いやいやいや、当初は由×菜は出てこないはずだったのに、気付いたら出てました。その代わり、志摩子さんが消えましたが。
 真美と日出実はハニームーンな感じで、蔦子と笙子はバカップルにさせて頂きました。
 そして、祐麒と乃梨子ですが、脳内設定ではもっとピンクな状態も考えたんですよ…。
ただ、それじゃ2人とも聖さまよりダメ人間だと思ったので止めましたが(笑)
 あと本当は喫茶店の場面で、某コーヒーに砂糖とミルクをイッパイ入れるハードボイルドなキャラを登場させたかったんですが、
あの人と絡ますと、祐麒と乃梨子が撃たれたりしますから、それも回避しました(笑)
 ちなみに僕の中では、コーヒーと紅茶がメインで、ケーキはあるけど、パフェとかシェイキはなくて、
パスタも3種類だけあるってお店をイメージしてます。
 次作は『ミルフィーユ』の後ぐらいでしょうかね。景さんと付属品が出て来る予定です。

 梅雨空から降る雨が、あなたの心を和ませるものでありますように。
 
 

 
 
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...Produced By 川菜平太