■ 熱きあとに
 
 
 
 
「可南子、行くよ」
乃梨子の声に、可南子はライダースーツのファスナーを閉める。
『さぁ、ここでOGASAWARAのピットが最後のピットインの準備を始めた〜』
場内ラジオが自分たちの動向を報告する。
「1位とは18秒しか差がないから、こうならないように、落ち着いて走ってきな」
ギブスで固定した左足を示しながら、佐倉桂が言う。
「にしても早いなぁ、由貴くん。足治っても、俺のシートは無いな」
佐倉のその言葉に、マシンを直接迎える作業についてないメンバーは笑う。
無線から、ピットロードにマシンが入って来たという連絡が入る。
「じゃ、連覇へのランに行きますか。最速で換えろよ」
チーフメカニックの檄に、「OK」とクルーが答える
『さぁ、最後のライダー交替になります。OGASAWARAは松岡から、昨年もチェッカーを受け
た細川に代わります』
クルーがタイヤ交換や給油を行う間、可南子はそれまで乗っていた由貴からコース状況を確認する。
「…OK。じゃあまた1時間後に」
「表彰台のド真ん中に立てる場所を確保してくるわ」
クルーのGOサインとともに、可南子は夕闇のコースへ飛び出して行った。


暗い夜空を彩る花火を背にして、祐巳と祐麒はビールを飲む。
2人の視線の先には、表彰台の真ん中でトロフィーを掲げる由貴と可南子がいる。
「はぁ、終わったね」
「うん。去年も思ったけど、充実感と寂しさがあるんだよね」
「とりあえず、優勝おめでとう」
そこに松葉杖を突いて、佐倉がやってくる。
「2人とも、お疲れ」
「お疲れ様です」
「まったく、アマチュアライダーが連覇なんて、前代未聞だよ」
苦笑いしながらそう言うと、続けて佐倉は言う。
「も一度、ライダーとして見たかったな…」
「佐倉さん?」
「俺、引退するよ」
「えっ」
思わず祐巳は驚きの声をあげる。
「さすがに嫁に泣かれたらなぁ……」
「やった場所が場所でしたから……」
事情を察して、祐麒が相槌を打つ。
「あぁ、シケインでハイサイドはマズかった。激しくはね飛ばされたし。不幸中の幸いは、うまく受
け身とれた事だわな。左足はヒビ入ったけど。でも、いつ死ぬかわからないから、辞めてくれってさ」
「そうですね。あたしも祐麒くんがあんな転倒したら、同じ事言いますね」
そう言ったのは、いつの間にか現れた乃梨子だった。
「あと、桂さんはパパになったんだから、バリバリ稼ぐために体は大事にしなきゃ」
「めちゃくちゃ痛いとこ突かれたなぁ。これ以上されないうちに退散しよっと」
そう言って、佐倉は表彰を終えて、下で揉みくちゃにされる可南子と由貴の方へ向かう。
「まぁ、祐麒が危ないことするのは、乃梨子ちゃんの為だけだろうから。さぁて、あたしもお姉さん
のとこに行かなくちゃ」
そう言って祐巳もガレージの方へ行く。
残された2人は何となく黙り合ってしまう。
2人はライダースーツを脱がされる由貴などをしばらく眺めていた。
「……まぁ、祐巳の言った通りだからさ…」
「えっ」
乃梨子は急に喋り出した祐麒のほうを向く。
「リコを守る為なら、例え相手がターミネーターや竜○四兄弟でも勝って見せるから」
「……さすがに竜○四兄弟は無理じゃない?」
「……かもな」
素直に認めた祐麒に、乃梨子はクスクスッと笑う。
冗談が通じ、祐麒もクスクス笑う。
「まぁ、それぐらいの気持ちを俺、持ってるから。さぁて、俺たちも馬鹿騒ぎに混ざりに行きますか」
乃梨子の手を引っ張って、祐麒は仲間の輪へと駆け出した。











あとがき

う〜ん、ホンダの連勝が止まっちゃいましたね&ヨシムラなら仕方ないか。
という訳で、川菜平太です。
先週、巨大パフェと戦っている時に突発で思い付いた8耐ネタ。
なんで、中身は薄いです。
時間的には『ノウェルを〜』の翌年です。なんで、祐麒は乃梨子にプロポーズしてます。
あと、佐倉さんがパパと言われてますが、これは別の話で考えてたネタがあるので、もしかしたら別
に1本、書くかもしれないです。(内容がかなりシリアスになるはずなんで、あくまで予定です)
と言うわけで、ごきげんよう。
 
 

 
 
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