■ あの子のロザリオ
 
 
 
 
入学式のリハーサルをしている時だった。
「由乃さん、菜々ちゃんにいつロザリオを渡すの?」
 薔薇三人による祝辞の練習中、急に祐巳さんが尋ねてきた。
 自分達のパートが終わったとはいえ、まだ志摩子さんのパートが残っているので、視線だけは壇上に向け、あたしは返事をする。
「明日、あの娘のうちに押しかけて渡そうと思ってる。ロザリオはこのあと買いに行くわ。良いのがあったから」
 祐巳さんもあたしと同じように壇上を向いたまま話し出す。
「で、ライバルの妹をスールにすると知った、令さまの反応は?」
「令ちゃんにしてはなかなかよ。『剣道の技術じゃ菜々ちゃんに敵わないけど、
由乃の気持ちは誰にも負けないんだから、それを忘れないようにね』だって。
それと『菜々ちゃんと由乃を直接奪い合えなくて残念』だって」
 その言葉に祐巳さんはクスリと笑う。
 フロア側から乃梨子ちゃんがOKというサインを出して一通りの予行が終わると、志摩子さんと乃梨子ちゃんもあたしたちの話に入ってくる。
「やっぱり、そのロザリオはあげれない?」
「そういう訳じゃないんだけどね。ただ、これはあの子につり合わない。
あの子の色と石の色が違うわ。それに、あの子に相応しいのを見つけたから」
 中野のファッションビルを歩いていた時に、たまたま立ち寄った時計店で見つけた、小さなクロスの真ん中に小さな石がついたロザリオ。
見つけた瞬間、ビビッと衝撃があたしの身体を走った。
「まさに運命だわ。身に着けてる菜々の姿まで思い浮かべれたんだから。そのときは持ち合わせがなかったから買えなかったけど」
「運命ですか…そうなのかもしれないですね」
 乃梨子ちゃんは自分の袖を眺めながら目を細める。隠れているとこに何があるか、あたしも祐巳さんも知っている。
「じゃあ、これでお開きにしますか。やる事はやったんだしね」
 そう言って、祐巳さんは体育館に居る他の人間に自分たちが帰る事を告げる。
「じゃあ、あとはあたしたちがするから、由乃さんはそのまま鞄を持って下校してね」
「えっ!?」
 志摩子さんの言葉に、あたしは耳を疑った。
「座右の銘は『先手必勝』でしょ、由乃さん。あたしたちに遠慮せず、早く菜々ちゃんを妹にしてきたらどう?」
 そう言うと、祐巳さんは唇に笑みを浮かべてあたしを見つめる。
 明確な言葉にしてないものの、
『由乃さんらしくないわね。今日中に菜々ちゃんを妹にしてきたら?』というメッセージに、あたしは苦笑いを浮かべて言い返す。
「さすが祐巳さん。祥子さまと聖さまに毒されて、
祐麒君に『ちゃんとお付き合いするなら最低、唇を奪ってきなさいよ!!』って、エールを送っただけはあるわ」
 あたしの返しに、祐巳さんは「うるさいなぁ」と言う顔をし、
唇を(一部の噂話だと、一緒に乙女も)奪われた当事者である乃梨子ちゃんは、顔を真っ赤にして俯いた。
「じゃ、遠慮なく帰って、今日中に菜々を手に入れて来るわ。ついでにキスもしてくるわ」
 あたしは壁際に置いてあった鞄を掴むと、体育館を飛び出した。










あとがき
 3年ぶりのノーマル形式での、初の健全作品です。初めまして、川菜平太です。
(昔の作品は黒歴史なので、恥ずかしいのでグッグッたりして、あまりほじくらないでくださいね)
 4月の中旬に新刊を読んで、菜々ちゃんを気に入って、
ネタの神が降りて来て、書きかけの別の作品を放っぽり出してすぐさま書き出したんですが、
菜々ちゃんと令さまが出て来る予定を、途中で由
乃の一人称でやった方がしっくりくるので変更し、こういう感じになりました。
 鯨様、そしてガス抜きに祐麒×乃梨子というネタをお借りしたフィリー様には大変感謝しております。
 あなたの心に、小さな幸せがきますように…
 
 

 
 
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...Produced By 川菜平太