■ 7月7日のデンジャラス
 
 
 
 
「可南子、短冊書いたか?」
ベランダ越しに呼び掛けられて、短冊を結び付けていた可南子は返す。
「うん、いま吊した」
「なに書いたんだ?」
「秘密」
その返事に、由貴がベランダから身を乗り出してくる。
「教えろよ〜」
「だ〜め。明日まで秘密よ」
「じゃあ、明日の朝なら教えてくれるな」
「良いわよ。織姫と彦星が会った後なら明かしてOKだから。そのかわり、由貴のお願いも教えてよ」


AM0:00頃
(と言っても気になる。だけど、見たら確実に可南子に蹴り飛ばされるよな…)
ベッドでうつらうつらしながら、由貴は可南子の願いごとがなんだったのかを考えていた。

  トスッ

(……ベランダか。どうせ、なにか落ちたんだろう…)

キュー…、スス…

(賊…か!!)
由貴は相手に気付かれないように相手との距離を計る。

スサッ…スサッ…

「誰だ!!」
由貴はベッドの近くまでやって来た賊に襲いかかり、そのまま部屋のソファに押し倒す。
「キャッ」
「えっ!?」
その聞き覚えのある悲鳴に、由貴は片手でそばのライトをつけた。
「エヘッ」
そこには透け気味のパジャマを着た可南子がいた。
「テヘッじゃないよ。まったく…」
拘束していた腕を離して、呆れ顔で由貴は可南子の方を向く。
「だって、あたしの書いたお願いって、由貴の寝顔をゆっくり見る事だったんだもの…」
この場に乃梨子や瞳子がいたら、確実にドン引きして、尻餅ついた状況で壁まで後退りするような、
普段の『クールビューティー』な可南子からは想像出来ない、乙女度120%なお願いが明かされ、
さすがの由貴も固まる。
「それに、せっかく隣り同士なのに、一度も夜這いかけてくれないから、あたしからかけようかとおもって…」
少し俯き加減で、可南子は告白する。
(うぅ、可愛い…)
由貴は本能で動きそうになるのを、どうにか理性で押さえ込む。
(ちなみに、全くの蛇足だが、可南子のとったような行動を、乃梨子が行った場合、確実に祐麒はここで理性の糸が焼き切れます)
「あのな…」
由貴は拘束を解くと、ソファに可南子を座らせる。
「俺も、可南子と同じ事を考えてるんだから」
「えっ」
「白状すると、俺も『可南子とラブラブできますように』ってお願いしたんだ。だから…」
「えっ!?」
由貴はヒョイっと可南子をお姫様抱っこで抱え上げる。
「ちょうど、明日は土曜日だし、一日中一緒に過ごせるな」
「…抱き合ったままの間違いじゃないの?」
「俺は藤田と佐藤みたいに、そこまで色ボケしてない」
由貴は可南子にデコピンを食らわせる。
「でも……泣いて頼んでもやめてやらねぇからな」
可南子をベッドに下ろしながら、由貴はツンとした顔で可南子に言う。
「誰が泣くものですか」
「ぜってぃ泣かしてやる」
「絶対に泣くもんですか」
2人は戯れ合う子犬のように言い合いをし、そしていつしか、一つのシルエットへと変わっていった。




「久々だったから、張り切り過ぎたのよね。どうも途中から、避妊するの忘れてたみたいで…」
可南子の言葉に、瞳子はあきれ顔をし、乃梨子は苦笑いを浮かべた。
「まぁ、ありえない。ただでさえ危ない事をするのですのに、避妊具を着けずにするとは。知的だと思っていた可南子さんが、誰かさんみたいに色狂うとは」
「誰かって、あたしのことかなぁ?」
瞳子のドリルを掴んで、乃梨子は極上のスマイルをする。
「引っ張らないで、痛いですわ」
「そりゃ痛いようにしてるんだから。それに、あたしも可南子も結婚してるから、世間的には良いのよ」
ドリルで遊びながら、乃梨子は「で、どうするの?」と可南子に尋ねる。
「産むわよ。こうなれば乃梨子さんに負けないぐらいの人数産んで、バスケットチームを作るわよ」
「あたし以上って言い方やめてよ。あたしは祐子と祐梨しか産んでないわよ」
「初めての子供が双子だと、次も双子が続く率が高いらしいわよ」
「だと福沢家、次は一気に6人家族ね」
「こら、瞳子。あんただって人事じゃないわよ。柏木さん、三つ子だったんだから」
「そうだった…」
乃梨子の指摘に、瞳子は頭を抱えて落ち込む。
 美女たちの騒がしくも楽しいおしゃべりは、カフェが閉まるまで続いた。









あとがき

佐倉「まぁ気にするな、みんな。今が十一月と言う事は俺も十分知っている。
だが、川菜のヤツが忙しかったうえ、トゥプレシャスを書き出したせいで、最後の3行ぐらいに3ヶ月半かけてしまったんだ。
その関係でこの作品はトゥプレシャスの番外編になったわけだ。
事実、このあとがきも、川菜が現実から逃避したせいで俺が担当しているわけなんだ。
そんな川菜からメッセージがある。
『みなさま、年末に東京港近辺で見掛けても、たぶん人違いです』
……まったく、川菜は何を考えてるんだか……
しかも、また由貴についての説明なしで話書いてるし。
ちなみに、この話はトゥプレシャス本編から1年後の話らしい
じゃあ、俺は仕事があるからここで失礼するよ」
 
 

 
 
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...Produced By 川菜平太