■ 20××年の元旦
 
 
 
 
『あけましておめでとうございます』
 コタツに腰から下を突っ込みながら祐麒はテレビを眺める。
 画面に映るリポーターと、たくさんの人でごった返す各地の神宮の様子に、祐麒はコタツの反対側に声をかける。
「夜のうちに行ってて良かったね」
「それにそこの神社って小さいから、こんなにこんでなかったし」
 そんな事を話していると、祐麒の携帯のスケジュールアラームが鳴る。
「そろそろ行こうか?」
「そうだね」
 そう言うと、2人ともコタツから這い出る。


 最寄り駅から電車に乗り込み、2人がやって来たのは、現在は児童心理学のセラピストとして働いている祐巳のマンションだった。
 玄関ホールの呼び出しパネルに部屋番をいれて呼び出しを押す。しばらくしてインターホンが上がる音がする。
「俺だけど」
『あら、祐麒さん。ちょっと待っててね、開けるから』
「祥子さん、小笠原の新年会はどうしたんですか?」
 この事態にも祐麒は動揺をみせず、現・小笠原リゾートプランの代表であり、
小笠原家の長女である祥子が、なぜ祐巳の部屋にいるかと疑問を投げ掛ける。
「あんな堅苦しいのには優さんが出てれば良いの。早く上がってきなさい。瞳子ちゃんも来てるんだから」
 それを聞いて、相方が苦い顔をするが、祐麒はそれを見なかった事にした。


 部屋に入ると、玄関には3人の靴以外にも5足の靴が散乱していた。
「あ〜、祐麒くん達だ〜」
「あらあら、本当だ〜」
 リビングに入るなり、眼がとろーんとしている由乃と、大学時代のコンパで、下心から酔い潰そうとする相手を、
逆に酔い潰して来た鉄の肝臓を持つ真美がコップをかかげて声をかけてくる。
 その周りには祐巳愛用のウサギの抱き枕を抱えたまますやすや眠る志摩子と、
イモムシのように毛布にくるまって眠る蔦子が転がっていた。
「あけましておめでとう」
 隣の部屋から祐巳が出て来て、お決まりの挨拶を言う。
「それより、この惨状は?」
「いやぁ、昨日の晩に飲み会をやった続きかなぁ」
「祐麒くん、今はまだましだよ」
 そう言ってお盆を持ってキッチンから出て来たのは、元ミスターリリアンこと令だった。
「祐巳ちゃんと志摩子と蔦子ちゃんは酔い切ると寝ちゃうから手が掛からないけど、由乃はキス魔だし、
祥子は泣き上戸だし、瞳子ちゃんは脱ぎ出すからから大変よ」
「ちなみに、目の前の生物の半径1メートルに入ると、捕獲されてキスされるわよ」
 真美の発言を聞いて、2人は後退りする。
「まあまあ、2人とも座りなさいよ」
 祥子に言われて、ダイニングセットの反対側に座る。
「ところで、瞳子は?」
「あぁ、2人が上がって来る間に、祐巳さんが風呂に放り込んだ」
 令が作ったお雑煮を食べながら、真美が説明する。
「確かに、あの格好のままじゃね」
 令の言葉に、祥子と祐巳も首を縦に振る。
「昔、あたし、可南子、笙子ちゃん、日出実ちんに瞳子の5人で飲んだ時にあの娘、日出実ちんを無理やり脱がしたからなぁ」
「その後2週間ぐらい、日出実が逃げる、逃げる」
「あの癖のせいで、中野の白木屋は出入り禁止だからね」
 そこで「聞き捨てなりませんは」という声とともに、洗面所のドアがバッと開けられる。
「あれは瞳子じゃなくて、可南子さんと乃梨子さん、あなたのせいでしょうが!!」
 ドライヤーで髪を乾かしながら、ジャージの上下で廊下に現れたのは、話のネタにされていた瞳子(ドリルなし)である。
「あたしはセクハラして来た隣のオヤジをぶっ飛ばしただけ出し、可南子さんも太股を撫でてきたヤツをジョッキで殴っただけです」
 指摘された乃梨子はすかさず反論する。
「それだけやれば、さすがにあれだと思うよ」
「そう言う令さまも、現役時代は素晴らしいご活躍で」
「聞いた話では、確か荻窪かどっかで、酔っ払ったチーマーの団体を、女3人で返り討ちにして、5人ほど病院送りにしたとか?」
「あたしはひので街のホステスを5人ぐらいのチーマーが囲んでいたのに割って入って、囲んでた全員の関節を外したって聞いたけど?」
 祐巳、祐麒、祥子に聞かれ、令は黙り込む。
「ところで、そこのお2人さん」
 話が切れたところで、祐麒たちに対して真美が声を掛ける。
「なんですか?」
「新婚生活には慣れた?」
「そうね。あたしと祐巳以外は、2人が結婚してから、初めて会うのよね」
 真美の問いを聞いて、祥子は思い出したように言う。
「確か、神戸に行った時に、平太さんに触発されて、結婚を申し込んだんだよね?」
「当時、祐麒くんが19歳、乃梨子ちゃんが18歳だったっけ?」
 祐麒も乃梨子も、聞かれるだろうと予想していた質問だったので、焦らずに答える。
「俺は安心出来るかな。家に帰ればリコがいてくれるって事が」
「あたしは『福沢さん家のお嫁さん』とか、『福沢乃梨子さん』って言われるのが、まだまだこそばゆいかな」
 以前のことを考えると、もっとのろけ話になるかと思っていた周りは、案外まともな2人の話に拍子抜けする。
「まぁ、入籍3ヶ月前から同居してたら、今は新鮮味がないだろうけど」
「小林と旅行に行ってる間に、勝手に家財道具を新居に送って、俺をうちから追い出したのは祐巳だろうが」
 帰って来て、自室が物気の空だった時のことを思い出しながら、祐麒は反論する。
「輸送賃がかからなかったんだから、ありがたいと思いなさいよ」
「でも、いきなりはないだろうが。それに…」
 なおも祐麒が反論しようとした時、ポツリと乃梨子がつぶやく。
「あたしはうれしかったけどな…」
 それを聞いて、口論をしていた福沢姉弟は黙り、周りはくすくす笑う。
「そういえば、祐麒くんたちって、何しに来たの?」
 初めに笑いから立ち直った真美に聞かれ、祐麒は本来の目的を思い出す。
「祐巳、着替えたか?」
「えっ?」
「そんな事だと思ったよ。今日は福沢家、祝部家の集まりがあるって言っただろうが」
「そうだった!!。すぐ着替えるから、下で待ってて」
 そう言って祐巳は自室に駆け込む。
「リコ。車、暖めてくるね」
 乃梨子にそう告げると、祐麒は祐巳の車の鍵を持って、玄関に向かう。
 出ようとして、思い出したことをリビングの人間に伝える。
「用事がないなら、皆さんにはこのまま居ていたけますか?
あと1時間もすれば、可南子ちゃんが帰って来ますので、しこたま飲ませてあげてください」
 そう言うと、祐麒は外に出て行く。
「夕方には帰って来て、新年会をしますから。令さま、ご馳走をよろしく」
「了解」
 令は親指を立てて応える。
「お姉ちゃん、下で待ってるから、早く来てね」
 そう言うと、乃梨子も部屋を出る。
「乃梨子ちゃん、普段は祐巳ちゃんのこと、あぁ呼ぶんだ」
 そんな令の言葉に、ブラウスを着ながら祐巳は答える。
「誰にも譲れない、あたしだけの特権だから」
 そう言うと、祐巳はブラウスのボタンをはめて、玄関を出て行った。











― あとがき ―



まず、全国5千人のしまのりファンと、祐麒×由乃ファンの皆様、ごめんなさい。
さてさて今回、途中まで乃梨子の名前を隠していたのは、祐麒の相方を、最初に祐巳だと思わせ、
次に誰なんだと思わせる事に狙いがありました。(でも、過去の作品読んでいたら、誰だかよめますよ ね)
さて、勝手に設定解説コーナー 祐麒と乃梨子の自宅ですが、武蔵野でも下町にある低層のマンションに住んでいて、
フローリングリ ビングと8畳と6畳の2LDKで、寝室にはダブルベッドって設定です。 祐巳の方は杉並あたりの静かな場所に建つ、
小笠原セキュリティの警備でセキュリティはバッチリの オートロックマンションで、1LDKですが、
リビングがかなり広いので、祐麒たちの部屋と変わら ないぐらいです。
ちなみに祐麒が暖めに行った所有車ですが、フィアットの『ティンク』(カリオストロでルパンが乗 っていたヤツ)のレプリカカーです。(架空物)
さらに裏設定では、ティンクを可愛いと言っていた祐巳のために、
知多の博物館で売ってる本物(整備の手間などの希少価値込みで、260万ほど)を買い与えようとした祥子、
しかし祐巳に拒否され たため、それならばとイタリアに飛んで、フィアットと業務提携し、
オールドカーのレプリカを発売 させて、祐巳にプレゼントした、という設定があります。  
とりあえず、今回はこのへんで。  
次はたぶん、結婚原因が出来た時の作品になると思います。
 
 

 
 
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...Produced By 川菜平太