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12/25 10:24 神戸・阪急三宮駅西口マクドナルド

「お姉さま、どこに行きます?」
 コーヒーを一口飲むと、ニット帽にサングラス、黒いコート姿の少女が、
向かいに座るポニーテールに赤いセーターに黒いスカートの少女に尋ねる。
「今日は買い物しようよ」
 ホットケーキをつつきながら、少女は答える。
「それにしても、可南子。その格好、似合いすぎる」
「そう言うお姉さまも、なかなか可愛いですよ」
 そう言うと、おかしさに互いに堪え切れず笑い出した。
 ニット帽の少女は、現・紅薔薇さまの細川可南子であり、もう一人のポニーテールはその姉であり、前紅薔薇さまの福沢祐巳である。

 前日に大阪・心斎橋であった小笠原グループの新しいホテルの完成披露パーティに招待された2人は、
パーティ終了後、そのままホテルに宿泊した。
 一夜明け、9時過ぎにホテルをチェックアウトすると、2人は電車を乗り継ぎ、神戸へとやってきた。
 まず2人が向かったのは、三宮センター街にある洋服店だった。
「これとか可南子に似合うかも」
 祐巳は次々と服を選んでは、可南子に合わせる。そして、その大半が、普段の可南子では着ないような、
フリルが付いてそうな可愛いデザインなのである。
「うん、似合う似合う」
 一人うなずく祐巳に、可南子は尋ねる。
「あの…、お姉さま。あたし、こんなレザーのパンツ穿いてるんですが…」
「大丈夫、あたしにはこの服に合うスカートのイメージが見えるから」
 そう言うと、祐巳は新しい服を手に取って合わせる。

 洋服店をあとにした2人は、アーケードを元町の方に向かって歩いて行く。
「次は靴とか見ようか?」
「そうですね、神戸と言えば靴の街ですからね」
 何軒かの靴屋をまわっていると、一軒のお店の前にあるウインドで、可南子が足を止めた。
「どうしたの、可南子?」
 祐巳は可南子のそばに寄る。
「このヒール、踵が低くて、赤いラインの刺繍がたくさんされて、お姉さまにピッタリですね」
 可南子は嬉しそな笑みを浮かべる。
「あたしは隣のミュールの方が可愛くて良いな」
 その後も、2人はお揃いのスカートを買ったり、ゲームセンターでクレーンゲームをしたりと、デートを楽しんでいた。


12/25 13:03

 三宮駅の山手側にあるイタリアレストランで2人はランチを取っていた。
「久々に買い物したって感じだよ」
 祐巳は満足という表情でピザにかぶりつく。
「最近はお互いに忙しかったですからね。お姉さまは留学中の資料整理とアルバイトが忙しかったですし、
あたしも文化祭や全日本の合宿などで忙しかったですから」
 パスタを食べながら、可南子はこの2ヵ月ほどの互いの忙しさを言う。
「取りあえず、1月は特に忙しい事はないから、ちょくちょく会えるかもね」
 祐巳が必殺子狸スマイルで言う。すると、
「祐巳さん、ちょくちょくで耐えられるのかな?」
 と、隣りの席から突っ込みが来た。
「つ、蔦子さん…」
「はーい、日本でも指折りの女性カメラマンの武嶋蔦子でーす」
「速記スピードは誰にも負けないつもりの山口真美です」
「蔦子さまの撮影助手は誰にも譲れない内藤笙子です」
 いつかの薔薇様たちのように、蔦子たちが挨拶する。
「驚かせて悪いわね。それはそうと2人とも、夕方まで神戸にいるなら、あたしたちと一緒に来て欲しいのよ」
「どこかへ行くの?」
 祐巳の問いに、3人は異口同音に「内緒」と返した。


 5人がやって来たのは、三宮駅を山手に上がって行った場所にある小さな写真店であった。
「おじ様、ただいま」
「おお、武嶋の嬢ちゃん。準備は万端だよ」
「おじ様、協力ありがとう。祐巳さんと可南子ちゃんと真美さんは待ってて。笙子、ライトよろしくね」
 そう言うと、蔦子と笙子は奥にある撮影スペースの部屋へ入って行く。
 15分ほど経って、笙子が3人のいる方に来る。
「皆さん、撮影が終わったんで中に入ってください」
 それだけ言うと、笙子は戻って行く。
「あたしは良いわ。さっき見せてもらったから」
「じゃあ、あたしも…」
「いや、祐巳さんと可南子さんは一番の関係者だから、見ないとダメよ」
 真美はそう言うと、2人の背中を押して促す。
 2人は仕方なく撮影スペースの部屋に入る。そして、有り得ない光景に絶句した。
「どうです?『お姉ちゃん』。お2人の晴れ姿は?」
 蔦子の問い掛けにも、祐巳はフリーズしたままで答える事が出来ない。
 すると、可南子がテクテクと歩いて、被写体の片方の肩を優しく掴む。
「おめでとう、乃梨子。で、妊娠何ヵ月なの?」
 そのセリフに、蔦子と笙子は大爆笑する。
「か〜な〜こ〜」
 ウエディングドレス姿で乃梨子が凄む。
「冗談よ。どうせ昨日の夜、祐麒君に告白されて、今朝方まで愛でられていたんでしょ?」
 可南子の言葉に、祐麒と乃梨子はギクッとした表情をし、蔦子と笙子と真美はクスッと笑う。
「可南子ちゃん、俺に当たられてもさぁ…」
 祐麒は苦笑いを浮かべる。
「別に祐麒さん、非難してるわけじゃないですから。あたしはただ、乃梨子が幸せそうなのが嬉しいだけです」
 可南子はそう言うと、祐巳の側に戻る。
「取りあえず、2人にはせっかく撮った写真を、燃やさないといけない事態にならないようにしてもらわないとね」
「蔦子さん。そんな事態が起きたら、あたしは祐麒をうちから追い出して、可南子と乃梨子ちゃんと暮らすわ」
 祐巳の言葉に、祐麒はさっきよりさらに複雑な表情を浮かべた。


 12/25 18:51 東海道新幹線・500系のぞみ内


 ウエディング衣装を着た2人を囲んだ集合写真を撮りおえると、一行は三宮から新大阪に向かい、
そこでバスケットの日本代表の候補者合宿に参加するため岡山に向かう可南子と別れた。
 別れ際、可南子が祐麒の耳元で何事か言うと、祐麒は「もちろん大丈夫だよ」と言い、乃梨子の肩をふわりと抱き寄せた。
 それを見ると、可南子は祐巳に「ではお姉さま、忙しい毎日を勝ち取りに行ってきます」と言い、博多行きのレールスターに乗った。
 見送りを済ますと、東京に帰る組は上りホームに移動し、東京へ帰る新幹線に乗った。
「ふーん、祐麒もけっこうミーハーというか、勢いがあるというか、流されやすいというか…」
「何だか、言わなくちゃならないような気になってさ」
「ん〜、何となく判るかな…」
 まず、真美が同意する。
「心境としては、スールを申し込むのに似てるかも」
 続いて、笙子も賛同する。
「さて、2人には残り時間、告白したときのことを吐いてもらいましょうかねぇ、みなさま?」
 蔦子の一言に、祐麒と乃梨子は表情を青ざめさせる。
「とりあえず祐麒、乃梨子ちゃん、おめでとう」
 祐巳は悪魔のような笑顔で2人を祝福した。
 
 

 
 
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...Produced By 川菜平太