Title:『長すぎラブ!』   ...produced by 滝 #序幕『登校・朝の風景』  晩秋の朝は、もう寒い。  冷たい空気と、今日も急勾配な蓮美坂が、一歩一歩を拒んでくるみたいだ。 「はぁ〜……」  少しだけ冷たくなった指先に息を吐く。  この時間帯、蓮美坂には学園の生徒ばかり。  誰もがみな「さむいねー」等と言いながら、身を寄せて暖をとる。  だが俺の横には―― 「…………」  横には、誰もいない。  いや、空けてあるのだ。そこに相応しい人の為に。  だから今日もちゃんと自分で起きて、朝食……は取る暇が無かったけど。  真直ぐ前を見て歩く。  眠気のせいで足取りは軽くはないが、もうすぐ三叉路。  もうすぐ、見えるはずだ。 「あ、おーいっ。なーおきーーっ!」  ……見えた。  全く人目を気にせず、ぶんぶんと大きく手を振る声の主。  心なしか歩幅は広くなり、流れる景色がドンドン視界の外に送り出される。 「おはよう、美琴」 「おはよー、今日はちょっと遅いぞー」 「勘弁してくれ、これでも早起きだ」  にこにこと文句を言ってくる美琴のそばまで行くと、自然と並んで歩き出す。  美琴と付き合いだしてもう数ヶ月、いつの間にやら始まった、二人の待ち合わせ。  こう寒い日は、なんだかそれが凄く意味のある事に思える。 「う〜、今日は寒いね〜」  今朝だけでもう聞き飽きた台詞は、誰の声より澄んで聞こえる。  そう言いながら無為に繋がれた手の温かさが、妙に嬉しい。 「わっ、直樹の手、冷たいね」 「ん? そうか?」 「うん、今年で一番」  そんな事を言いながらも、美琴は一層強く俺の手を握ってくる。  えへへ、と笑う顔が、いつもより楽しげだ。 「美琴、何かいい事あった?」 「え、なんで?」  歩くたびに揺れるポニーテールが、犬の尻尾みたいだと思った。  なんて言ったら、きっと頬を膨らませて怒るんだろうなぁ、美琴は。 「んー、なんとなく」 「えへへ、うん。もうちょっとで完成だからね」 「完成? 何が?」 「ひ・み・つ」  俺の質問に、漠然とした謎を残す発言をする美琴。 「おいおい、隠し事はなしだろ?」 「ふふん、もうすぐ分かるから、期待してて待っててよ」  余程自信のある事なのか、美琴は揚々と胸を張る。  ずっと隠していかなきゃいけない事なら問題だが……まあ、そのうち分かるならいいか。 「そっか、じゃあ楽しみにしてる」 「うん。してていいよ」  そう言って、美琴はまた笑顔。  寒さを感じなくなる所か、暖かくなっているのに気付いたのは、蓮美坂を登り詰めた後だった。 #第二幕『妨害ハットトリック』  “きーんこーんかーんこーん……”  放課後を報せる鐘がなる。  今日もつつがなく授業は終了。  ちなみにこの“つつがなく”というのは、フカセンの拳骨を日常として受け入れている事になるが、それはともかく。  いつも通りに事が終わったなら、その後もいつも通り。  当然この後は―― 「直樹、カフェテリアに行こうっ」  ――このように、部活動に精を出すわけだ。  さっきまで眠そうだった美琴は、放課後という解縛の言葉で元気いっぱい。  俺にもその元気を分けて欲しいものだと思う。 「……あと五分」 「ほら、突っ伏してないで早く行こうよー」 「あのー……張り切っている所に申し訳ないんですが」  机に伏せている俺の耳に、サラウンドで会話が飛び込んでくる。  ちなみに右からのが美琴で、左からのは。 「どうしたんですか、結先生?」 「ええ、ちょっと手伝って貰いたい事があるんです」  俺はのろのろと重い頭を持ち上げながら言う。  結先生は申し訳ないのですが、とか言いながらも笑顔。  無碍に断る事をはばかる笑顔だ。  ……結先生も俺に手伝わせ慣れてきたな。 「……分かりました。また荷物運びですよね?」 「ええ、助かります」 「あ、じゃあわたしも手伝うよ」 「いい、美琴は先に行っててくれ」 「えー、何でっ」  俺の申しでを心外だと言わんばかりに、美琴は不服を漏らす。  だけど俺としては……いや、男としては当然の答えだろう。 「バカ、美琴に重いもの持たせられるかよ」 「直樹……」 「分かったら先に行っててくれ。ちゃっちゃと終わらせてくるから」 「……うん。じゃあ先に行ってるねっ」  美琴は本当に嬉しそうな表情でぱたぱたと手を振り、教室を後にした。  残された結先生はあはは、と苦笑している。  なんでだろう? 多少クサい台詞だったとは自分でも分かっているけど。 『…………』  この教室中の苦笑いは何だ?  俺はそんなに変な事言ったのかな、と弘司に視線を流す。 「…………っ」  あっ。あいつ目を逸らしやがった。  友として大分寂しいぞ、それは。 「え、えっと、それじゃお願いしますね、久住くん」 「え? あ、はい」  結先生の声に、俺は首を傾げるのを中断する。  まあとにかく、さっさと荷物運びを終わらせなきゃな。           ―          ―          ― 「……っはあ! 重たかった……」 「お疲れ様、これで全部です。すごく助かりました」  ようやく最後の荷物を降ろして一息つく俺に、頭を撫でてきそうな勢いで結先生が礼を言ってくる。  あんまりにも重たかった荷物に、腕が熱を持ったかのように痛んだ。 「それじゃ、俺は部活に行きますんで……」 「はい、ありがとうございました、久住くん。先生も後から行きますからね」 「は〜い……」  腕をさすりながらトボトボと廊下を歩き出す。  何はともあれやっと終わった。早くカフェテリアへ――美琴の所へ行かなくては。  少しだけ軽くなった足取りで廊下を行く。 「…………ん?」  と、なんだかいい匂いが漂ってきた。  ふと見た一番近くの教室は、やはり家庭科室。  “がららっ”  思わず足を止めた俺に、待ってましたと言わんばかりに家庭科室の扉が開く。 「あっ、なおくん。丁度いい所に」  その扉から望む姿は、やはり保奈美のもの。  保奈美は落とし物を見つけた時のような、パァッと明るい顔をしている。  これは……試食を頼む時の顔だな。 「ご入用ですかな、保奈美さん」 「うん、久しぶりに試食して貰いたいなって思って」  久しぶりに、という言葉が妙に重い。  思い出して見れば、もう一ヶ月は料理部の試食に参加していない。  祐介の一件以来美琴にかかりっきりだったという事もあるが、こう一ヶ月も間を空けてしまうと薄情じゃないだろうか。 「どうかな、なおくん」 「う〜ん……」  いやしかし、俺にはカフェテリアで待つ美琴がいる。  だがしかし、いつも試食させて貰っている事に報いるには、試食しかない。  ……拮抗する意思は、やがて雌雄を決する。 「……分かった、食べる」 「本当? よかった」  パァッと更に光度の増した表情で、保奈美は俺を家庭科室に招き入れる。  まあ、ちょっとだけ食べて感想を言って、手っ取り早く済ませよう。           ―          ―          ― 「食い、すぎ、た……」  料理部の試食を終え、腹を撫でながらよろよろと廊下を歩く。  栗ご飯に栗サラダ、栗ドラヤキに栗羊羹と秋の味覚フルコースをお見舞いされた結果がこれだ。  食べすぎてしまったそもそもの原因は、いつの間にやら料理部員が腕を上げた事にあるわけだが、食べさせてもらった手前文句は言えない。 「げっ、もうこんな時間かよ……」  携帯で確かめた時間は午後五時前、もう日も暮れようとしている。  まずい、美琴のやつ、絶対に怒っているか、心配してるだろう。  焦燥感に駆られ、無人の廊下を早足で抜ける。  “がららっ”  いや、抜けるつもりだった。 「くーずーみー♪」  ウェルカーム! と開く保健室のドア。  そこから出てくるのは勿論その部屋の主、恭子先生だ。 「すっごくいい所に来たわね久住ー、今プリントの――」 「家で腹を空かせた女房と子供が待ってる、行かせてくれ」  ぷい、とその前を横切る。  ダメだ。今ここで捕まったら、更に美琴を待たせる事になってしまう。 「冗談にしてはキレがないわね」  “がしっ”  およその恭子先生らしからぬ、強い力で肩を掴まれる。  ちくしょう、何でこの日に限って強引度マックスなんだ、アンタは! 「部活があるんです。青春の汗が待ってるんです」 「文化部所属が何か言ったかしら。それとも何、コーヒーのツケはいつまで経っても解消されないワケ?」  さらりとフックの利いた事を言ってくる恭子先生。  さっきのはズルイ。これで手伝わなきゃ、後で何を言われるか分かったもんじゃない。  こういうのを、半強制と言う。 「分かりましたよ……ちゃっちゃとやりましょう」 「流石久住、話せるわ〜」  意気揚々と保健室の中に消える背中を追うと、そこには紙の山、山、山。 「これ、全部ですか……?」 「大丈夫、頑張れば二時間以内に終わるから」 「…………」  俺は溜息を噛み殺しながら、まだ暖かい紙の束を手に取った―― #第三幕『独占欲、メラメラ』  午後六時過ぎ、最高速で作業を進めた甲斐あって、何とか予定より早く終わる事ができた。  何だかどっと疲れた身体を引きずり、カフェテリアの入り口をくぐる。 「えーっと……居た」  一直線に天文席の方を見ると、予想通り美琴と弘司の姿があった。  俺はおっかなびっくりといった様相で、二人に歩み寄る。 「……大変お待たせいたしました。ミラノ風クズミナオキでございます」 「遅い、遅すぎ」  俺の柔らかなジョークにニコリともせず、美琴はテーブルに目をやったまま答える。  見れば二人は、既に夕食を取り始めていた。美琴は怒りをぶつけるようにペペロンチーノにフォークを突き立て、グルグル回している。 「…………」  これは相当ご立腹だ。  どうしたものか、と弘司に視線を遣る。 「…………(訳:お前が居ない間、大変だったんだからな)」  すると視線で文句を返してきた。  ……状況は芳しくありません。 「悪い、色々捕まっちまって。あ、俺コーヒーね」  いつもの自分の席に座りながら、俺は近くにいたウェイトレスにコーヒーを注文する。  席に着くと、やっと美琴は俺の方を見た。 「ふーん、色々って?」  平静を装っているが、口調は辛辣。  本当に、朝の機嫌の良さはどこへやらって感じだ。 「まずは保奈美に料理部の試食を頼まれてだな……」 「……彼女を置いてきぼりにしてご飯食べてたんだ。しかも女の子に囲まれて」  ピキーンと、場が張り詰める。  美琴の表情は、これ以上無く固い。  間違いなく、怒ってます。 「あ……後、恭子先生の手伝いでプリントの仕分けをしてた」 「……優しいね直樹は。誰にでもっ」  ふんだ、と美琴はそっぽを向いてしまう。  ……これは正直に言わなかった方が良かったらしい。 「だからごめんってば。ほら、杏仁豆腐おごるから」 「も、物で釣られたりなんかしないんだからっ」  果たしてそうだろうか?  美琴の横顔が、確かに緩んだように見えたんだけど。 「ほらほら、ちょっと辛いものを食べた後は甘い物が食べたくなるだろ?」 「い、いいよっ、これ食べる前に一個食べちゃったし」 「ほーら、我慢はよくないぞー」 「いいってばっ。わたしもう帰るからねっ」 「あっ、おい……」 「はい、コーヒーお待ちどー」  席を立つ美琴を追いかけようとすると、狙い澄ましたかのように茉理がコーヒーを持ってくる。  思わず受け取ってしまった俺は、美琴を追いかけようにもこれも持ったままでは外に出れない。 「なんだよ、あのぐらいで怒る事ないのに……」 「……あれは直樹が悪いだろ」  はぁ、と溜息を吐くと、弘司は俺を非難する。  まあ確かに、謝るにしては誠意が足りなかったかも知れない。 「うん、直樹が悪い」 「事情も知らんやつが勝手な事をのたまうでない」 「でも直樹が美琴さんを怒らせちゃったんでしょ? だったら直樹が悪いんじゃない」 「まあ……確かにそうなんだけど」  茉理はいつの間にやら会話に加わって、理に適っているのか適ってないのか分からない理屈を講じる。 「でもさ、今まで美琴はあのぐらいじゃ怒らなかったぜ?」 「……あのなぁ、直樹。天ヶ崎さんと付き合いだして何ヶ月だ?」  すると今度は弘司が講釈をたれる。  何だか今の俺……呆れられてる? 「えっと……五ヶ月ぐらいだけど」 「その間、何が変わった?」 「変わった事? うーん……」 「はいはーいっ、続きはあたしがっ」  俺が頭を捻っていると、茉理が手を上げて割って入る。  ……こいつはいつまで仕事をサボっているつもりだろう。 「つまりね、直樹はこの五ヶ月間で、美琴さんの事をどう思うようになった?」 「そりゃ…………前よりもっと好きになったさ」 「だったらもう分かるでしょ?」 「分かんねぇよ」 「まったく、これだから直樹は……よろしい、天啓を授けてあげましょー」  ふふん、と胸を張って言う茉理。  無いクセに張り出された胸は、直樹は鈍感なんだから、とでも言いたげだ。 「ずばり、美琴さんは……」 「美琴は……?」 「独占欲、メラメラー」  メラメラー、と茉理は手の平をはためかせながら言う。  独占欲。その言葉が、ぐわんぐわんと頭に響く。 「なるほどねぇ……」  俺は覚めてしまったコーヒーをグイッと一息で飲む。  中途半端な温かさのコーヒーはやっぱり不味い。 「取りあえず、帰ってゆっくり考えるとする」 「よし、じゃあ今日はお開きにするか」 「おう」  弘司の言葉に頷き、空になったカップをトレイにのせて茉理に渡す。  カフェテリアから望んだ夜の空気は、やはり寒そうだった。 #幕間『乙女ゴコロ』  その日の晩の事。  心なしか冷える部屋は、薄いピンクを基調に彩られていた。  その部屋のベッドの端に座った少女――美琴は、巧みに編み棒を動かしている。 「ほんっとに、節操なしなんだから……」  ぶつぶつと紡がれる文句は、他でもない直樹に向けられたものだ。  作業の手を休めずに美琴が回顧するのは今日の出来事。  延々と夕暮れまで待たされ、更にはその理由が『他の女の人に構っていた』のだから、美琴の心情を察するのは容易だろう。  それでも直樹の為に“編み物”をしているのだから、美琴の甲斐甲斐しさと言ったらこの上ない。 「……そりゃ手伝うことは悪くないけど、もうっ」  美琴はそれが嫉妬である事を理解している。  それが子供じみた独占欲から来ることも、重々承知している。  それでも直情径行な美琴は、その気持ちを押さえ切れずにいた。 「ああっ、絡まったぁ」  少し苛ついている所為か、巧みに見えた編み棒捌きに乱れが生じる。  幾重に織り込まれたウールの毛糸は、その終端でダンゴになってしまっていた。 「もー、かたいー」  ぬーん、と指先に力を入れてダンゴになってしまっている部分を解く。  美琴の編み物――マフラーは、“もうちょっとで完成”の域を超え、二メートル以上の長さになっていた。  それでも手を休めず編み続けてしまうのは―― (ちょっと長めにして、使いにくくしちゃったりして)  ――などと、殆ど無意識下に子悪魔めいた考えがある所為だ。  まったく誰の為にマフラーを編んでいるのか、本末転倒な話である。 「あーあ、明日どうしよっかなー……」  休憩にするのか、美琴はふわりとマフラーを置く。  うーんと伸びをしたままベッドに倒れこむと、美琴の腕がぬいぐるみに当った。  その熊のぬいぐるみを手に取った美琴は、何をするわけでもなく、それを眼前に持ってくる。 (今日は怒って帰ってきちゃったし……話しにくいなぁ)  ぬいぐるみに高い高ーいをしてみても、答えが転がりでてくるワケではない。  要は美琴が昨日は言い過ぎたと謝るか、直樹が謝ってくるか。  その他には、明日会ってみたらすんなり会話できた、なんていう可能性もある。 「ま、明日になってみれば分かるよね」  美琴はぬいぐるみを抱き締めてゴロゴロ転がり、暫くして起き上がる。  休憩は終わりにするのか、太ももの上にぬいぐるみを座らせたままマフラーを手に取った。 「みてらっしゃいよー」  自信満々にそう言う美琴。  その晩は遅くまで、編み棒を動かしていた―― #第四幕『バッド・モーニン』  翌朝。  俺は今日も一人で蓮美坂を登っていた。 (美琴……今日も待っててくれるかな?)  一人で黙々と歩いていると、時折不安になってくる。  そんな危惧が沸くたびに、『今までずっと待ち合わせてたんだから大丈夫』と自分に言い聞かせ、重くなってくる足に叱咤した。  それを何度となく繰り返していると、やがて三叉路が見えてくる。 「…………いない」  自分でも気付かない内に早足になって三叉路に立って見ても、結果は同じ。  四方八方どこを探したって、美琴の姿は無かった。  いつもならもう待っていてくれる時間だけど……今日はたまたま遅いだけだろう。  俺はそう信じ込む事にして、道端でジッと待つ。 「…………」  一分、二分、五分、十分……。  時間が経つ程、不安が風船みたいに膨らんでくる。  蓮美寮の方まで行ってみようか――とそう思った時。 「あ、おはようなおくん。今日も美琴と待ち合わせ?」 「ん? お、おう」  不意に保奈美に話しかけられた。  保奈美がこんな時間に登校とは珍しい。 「保奈美、寝坊した?」 「違うよ。女の子には色々あるの」  そう行って保奈美は少しだけ頬を赤らめる。  ……あー、なるほどな。 「ところでなおくん。もうそろそろ行かないと遅刻しちゃうよ?」 「え?」  言われて時間を確かめて見れば、もう早足でしか間に合わないような時間だ。  これは嫌な想像だけど……もしかして先に行ってしまったのだろうか? 「…………」  俺はもう一度だけ蓮華寮の方を見る。  そこのどこにも、あの揺れるポニーテールはない。 「どうも置いてかれたみたいだ。行こう、保奈美」 「えっ!?」  驚愕の事実、とばかりに驚く保奈美。  まあ今までの俺達を見てきた人からすれば、何事かと思うだろう。 「なおくん……喧嘩でもしたの?」 「それは追々話すから、今は急ごう」  俺が先陣をきって歩き出すと、保奈美もそれに続いてくる。  俺は少しだけ歩きづらそうな保奈美を気にしながら――学園への道のりを急いだ。 #第五幕『彼女は地獄耳』 「それで、天ヶ崎さんとはまだ仲直りできてないんだな?」 「そんなの朝から見てりゃ分かるだろ……」  昼休み。  いつもなら美琴と顔を付き合わせて昼飯を食っている時間だが、今日に限っては違う。  俺はカフェテリアで買ってきたパンを一口食べると、パックのジュースでそれを流し込む。 「なんでだよ、謝るだけだろ」 「それがさ、美琴のやつ、全く俺の相手してくれないんだよ。つーん、とか言ってさ」 「そりゃまた何で?」 「今日美琴は遅刻ギリギリで駆け込んで来ただろ? 俺、てっきり先に行ったんだと思って保奈美と登校してたんだよ。  美琴がそれを見てたみたいでさ、朝から目を合わせてもくれないんだ」 「……難儀だな」 「……ああ」  俺はもふもふとパンを食べながら、保奈美と昼食を取っている美琴を見る。  すると一瞬だけ目が合い――すぐにそっぽを向いてしまった。  保奈美が美琴に何か言っているが……宥めてくれているのだろうか。 「お手上げだよ、これじゃ」  半ば事務的にパンを食べ続ける。  どうしたらいいんだー、と考えるばかりで、味なんか分かってもいない。 「…………」  お互い無言になる。  ふらふらと視線を彷徨わせていた俺は、ふと窓外を見遣った。  ……とそこにはちひろちゃんと茉理の姿。 「ん? あれ、橘さんと茉理ちゃんだよな」 「そうだな。大方温室に飯食いに行くってところだろ」 「へぇ、わざわざ温室に?」 「最近そうしだしたんだと。花に囲まれて食べるご飯は格別、とか言って……ロマン主義は分からんよ」  二人は校舎の脇を通り、温室に向かって行く。  楽しそうに喋りながら歩いていく姿が、妙に羨ましく思えた。 「やっぱりいいコンビだよな、あの二人。何だか華やかっていうかさ」 「まあ……茉理もちひろちゃんといる時ぐらいに可愛らしけりゃ言うこと無しなんだが」 「普段は可愛くないってのか?」 「生意気言わなきゃ認めてやらんこともないけどな」  ちゅー、とパックのジュースを飲むと、テーブルマナーに反する音がして底が尽きる。  俺はまたふと美琴の方を見ると――今度はジロっと睨んでいた。  その瞳の中には嫉妬の炎。やば、さっきの会話が聞こえてたんだろうか。 「…………」 「どうした直樹? 急に黙り込んで」 「……きっと今日は厄日なんだ、黙っておく事にする」 「はぁ?」  首を傾げる弘司。  俺は自分の行動の軽率さに唇を噛みながら、食べ終わったパンの袋をクシャクシャと丸めていた。 #幕間『訊いてみよう、そうしよう』  その日の晩も、少々冷え込んでいた。  そして今日も自室にて美琴は、いつ終わるとも知れぬ編み物に精を出している。  そのマフラーの長さは既に基準を大きく超えているが、美琴が手を休める事は無い。 「ほんとに、節操無しにもほどがあるっていうか……」  今日も今日とて、美琴はぶつぶつと文句を漏らしていた。  それは勿論、今日の直樹に行動についてである。  本日の直樹の行動は、本人に他意はないとしても、美琴にとっては重大な事。  あれらの言動は、美琴を刺激するのに十分だったのだ。 (ひょっとして……わたしじゃなくてもいいんじゃないの?)  ついには一番考えてはいけない考えに行き着いてしまう美琴。  それでも、あの直樹の様子ではそう考えてしまっても仕方の無い事である。 (男の人は、女なら誰でもいいっていうらしいし……)  じわじわ沸いてくる、嫌な思考と不安。  頭の中をぐるぐる回る、考えたくもない想像。 「……よしっ」  そんな負の感情に押し潰される前に、美琴はすっくと立ち上がる。 『男は女なら誰でもいいのか?』  それが分からないなら、訊きに行けばいい事なのだ。  幸いここは寮、少なからず男子生徒がいる。 「とりあえずは、広瀬くんの所かな……」  美琴は覚悟を決めると、マフラーをぽんとベッドに置き、部屋を後にした。 #第六幕『天文部長の失脚』  その密会は、評価会と呼ばれていた。 『……んんっ……あはあぁぁぁ……』  弘司の自室は今、女の喘ぎ声で満たされている。  そしてそれを取り囲むように蠢く、数人の男達。  その誰もが鼻息を荒くし、乱れよがる髪の長い女を凝視していた。 「うおぉ……めちゃエロイな、こいつ」 「……ああ、腰の動きのいやらしさは極上だな」 「流石はむっつり弘司の秘蔵の品、と言ったところだね」 「誰がむっつりだよ」  そう、この評価会というのは、いわゆるAV鑑賞会。  何故『評価会』と呼んでいるかについては、『鑑賞会』では分かり安すぎるという問題からだ。  そしてこの場に居合わせた寮生仲間達と、作品について論議するのである。 「で、これは誰が一番最初に借りるんだ?」 「そうだねぇ、やっぱり弘司が他ので気にいったのがあれば、それを持ってきたヤツと……」  “こんこんっ”  だがしかし、その会話を両断するように、ノックの音が響く。 「広瀬くん、いるー?」 『あはぁっ、いいっ……もっとぉぉ!』  重なる美琴の声と女の喘ぎ声。  男達は声無き悲鳴を上げ、大慌てでビデオを停止させる。 「「「「…………」」」」  それが完了すると、男達は冷や汗を拭いながら、無言で頷き合う。  弘司はそれを黙認し、平静を装いながらドアを開けた。 「や、やあ、天ヶ崎さん。何かようかな?」 「あ、うん……って何だ、タナベエくん達も居るんだ。ついでだからみんなに訊くね」  美琴は部屋の中で何故か正座して黙り込んでいる男達を疑問に思うことも無く、するりと部屋の中に入る。  そしてそれと同時に、ズバリと鋭い一言を言い放った。 「真面目に答えて欲しいんだけどね、男の人って、女なら誰でもいいの?」  ぐっさり。美琴の一言が、男達の道徳心に突き刺さる。  あまりの事態に場が凍りつく中、弘司だけが何とか声を絞り出す。 「天ヶ崎さん……その、聞こえてた……のかな?」 「うん、ばっちり聞こえてたよ」  にわかに目を鋭くして言う美琴。  美琴の聞こえていたとは勿論今日の昼休みの会話だが。  当然ながら男達は、さっきの『評価品』の音声が漏れていたと顔を青ざめたワケである。 (だ、だから僕は音量小さめにした方がいいって言ったのに、タナベエがっ) (何だよ、最終的にリモコンで音量上げたの斉藤だろうが!) (ヘイ、もう悪あがきはよそうぜ……) (こら鴻巣、開き直るな。エロは隠してこそエロなんだよ! な、むっつり弘司?) (だからむっつりって言うなって)  小声で囁き合う男達を、美琴は不思議そうに見る。  そこのまで悩む事なのだろうか? と疑問に思ったが、美琴としてはこの質問には即答して欲しかった。 「で、どうなの?」  美琴は再び真面目な顔で、男達を問い詰める (それより、僕らはどうするべきなのさ?) (うーん、なんか天ヶ崎怒ってるっぽいしな) (もしもの話だけどサ……この事にセンセーにチクられたらやばくない?) (…………天ヶ崎さんはそんな事しそうにないけど、怒らせたままはマズイよな) (じゃあどうする?) (男の謝罪方法は、土下座って相場が決まってるだろ) (……マジかよ) (よーし……せーのっ) 「「「「どうもすいませんでしたぁっ!!」」」」  男達はべったり額を床につける。  正座の姿勢から土下座への、流麗な身の運びである。  一人の少女に向かって、その対象より幾分体格の良い男達が土下座する様は、ひどく滑稽だった。 「え? 何で謝るの?」  対する美琴はあっけにとられている。  欲しい答えはイエスかノーであるというのに、土下座されては益々ワケが分からない。 「だって……この部屋の中の音、外に漏れてたんだよね?」 「この部屋の音? ううん、知らない。わたしが聞こえた言ってるのは、お昼に直樹が話してた事なんだけど……」 「…………あれ?」  ぐにゃりと、場の空気が緩む。  ようやっと勘違いだと気付いた男達は、次々に張り詰めていた表情を解く。 「何だ何だ、よく分かんないけど、違うんなら良かった」 「ビビらせるなよ、天ヶ崎ー」 「あー、寿命縮んだー」 「? よく分からないけど、結局どうなの?」  口々に安堵の声を漏らす男達に、美琴は三度疑問を投げつける。  すると弘司が、皆を代表するように答えた。 「大丈夫だよ、天ヶ崎さん。直樹とはあんな話をしてたけど、あいつは天ヶ崎さんしか見えてないよ。  誰でもいいなんて八方美人は、そうそういるもんじゃないし」 「そ、そうかな?」  自分の事は棚に上げた弘司の発言に、美琴はやっと表情を崩す。  これにて一件落着、と男達は後ろ手をつき――それがいけなかった。 『んはぁっ! ああっ……イクぅ、ああぁ!!』  再び部屋を満たす嬌声。  タナベエと呼ばれた男子生徒が手をついた拍子に、リモコンの再生ボタンを押してしまったのである。 「ばっ、ばかっ、何やってるんだよぅ!」  そして今度は斉藤と呼ばれていた男子生徒が、リモコンのボタンを連打する。  彼は停止ボタンを押しているつもりなのだろうが、実際に押しまくっているのは『音量大』のボタンだった。 『あうんっ、イクっ、イクゥゥ〜〜っ!!』 「「「「ノーーーーーッッ!!」」」」  イクなーーーー!! と咆哮する男達の声が、女のオルガスムスとかぶる。  しかしそれで音量の増された女の声がかき消えるワケがない。 「…………」  ディスプレイの中の男が「ウッ……」等と言っている最中、その他の男達は「うぅ……」と美琴の方を見る。  美琴は泣きそうな目で男達を見た後―― 「……うわーん!」  ――そうして彼女は、凄い勢いで部屋を後にした。 #第七幕『茉理謀術』 「はぁ……」  俺は家に帰ってからと言うもの、ずっとソファでゴロゴロしている。  今日美琴は部活にこなかったし、弘司も用事があるとかでさっさと切り上げてしまった。  だからこうしてゴロゴロとゴールデンタイムの番組を見ているワケだが……面白いはずのテレビも思ったより楽しめない。  まったく、明日もこの調子なのかと思うと気が滅入る……。 「ちょっと、ソファを占領しないでよー」  いつの間にやら二階の自室にいたはずの茉理が、リビングに出現している。  ゲシゲシと、投げ出された俺の脚を蹴っていやがります。 「何だよ、もう……」  俺は渋々身を起こしてソファを開けてやると、出来たスペースに茉理がちょこんと座る。  茉理の手には煎餅。それをぱりぱり食べながら、茉理はツインテールを傾けて『食べる?』と聞いてきたが、首を横に振って答えた。 「直樹、まだ仲直りしてないんだって?」 「余計なお世話だ。……誰に聞いたんだよ」 「あっ、保奈美さんを心配させておいて、余計なお世話はないんじゃない?」 「う……」  それを言われると、辛い。  本来自分達の間で片付けないといけない事なのに、これだけ回りを巻きこんでしまっているんだから。 「……謝りたくてもさ、美琴が話を聞いてくれないんだよ」 「あらら、そんなに怒らせるような事したんだ」 「む……」  やっぱりまだアレがそんなに怒る事なのか理解できないが、つまりはそういう事なんだろう。  俺はとにかく美琴の機嫌が良くなるのを待つしかないワケだ。 「しょうがないわね、茉理さんが力になってあげましょう」 「……何?」  ハッとして、茉理の顔を見る。  茉理は二枚目の煎餅を手に取りながら、ニヤリと俺に笑って見せた。 「ま、明日になったら分かるから。ちひろに会ったらお礼言っときなさいよ」 「なんだそれ。どういう意味……もがっ」  そう言って茉理は俺の口に煎餅を差し込むと、揚々とリビングを出て行った。 #第八幕『ちひろアタック』 「男の子なんて男の子なんて男の子なんて……」  弘司の部屋から帰ってから、美琴はずっとこの調子だった。  相も変わらずぬいぐるみを抱きかかえたまま編み棒を動かし、呪詛のように言葉を吐き出し続けている。  昨日に引き続いて編み続けられているマフラーは、もう三メートルに届く勢いだ。  “ぴんぽーん”  だがそこで、作業を邪魔するように呼び鈴がなる。  美琴はこんな時間に誰だろう? と疑問に思いながら、マフラーを置いて扉に向かう。 「し、失礼しますっ」 「あれ? 橘さん?」  がちゃっと扉を開けた途端に深くお辞儀をしたのは、ちひろだった。  突然の訪問に、益々疑念がつのる。 「? 取り合えず上がりなよ」 「はい、失礼します」  ひとまずちひろに上がって貰う事にした美琴は、ポットからお茶を淹れる。  そして部屋の中で立ち尽くしているちひろにクッションを勧め、腰を落ち着けた。 「それで、どうしたの、橘さん?」 「あの……単刀直入にいいます。天ヶ崎先輩、久住先輩と喧嘩してますよね?」  美琴はその言葉に、カップを傾ける動きを止める。  喧嘩というより美琴が勝手に怒っているだけなのだが、何故ちひろがその事を知っているのだろうか? 「そうだけど……どうして橘さんがその事を?」 「茉理に聞いたんです。それでちょっと、お願いがあって」  ちひろは一口だけお茶を飲むと、改めて美琴に向き合う。 「お願いです、天ヶ崎先輩。ちゃんと久住先輩と、話をして上げてください」 「え……橘さん……?」 「確かに久住先輩の回りには色んな女の人がいますけど……その誰より、先輩は天ヶ崎先輩を大切に思っているんだと思います」 「それは……わたしだってそうだよ」 「だから私は、二人には仲直りして欲しいんです。私はいつも仲のいい先輩達じゃないと、そんなの嘘なんだって、思ってしまいます」  ちひろの言葉に、ガンとショックを受ける。  ただの独占欲が、こうして後輩まで心配させてしまっている。  その事実を申し訳なく思ったし、わざわざ「久住先輩と話しして上げて」と願いにくるちひろには、頭の下がる思いだった。  これこそが、茉理謀術『普段おとなしい後輩にお願い事をされると無碍に断れない効果』である。 「……ごめんね、橘さんにまで心配かけちゃって」 「いえ……。あの、天ヶ崎先輩。そのマフラーって久住先輩にプレゼントするんですよね?」 「あ、うん」  ちひろはお茶をふうふうと息で冷ましながら、ベッドの上に置かれたマフラーを見る。  渡すタイミングが大きく逸れていってしまったそのマフラーは、ちひろの目から見ても長すぎた。 「あはは……長く編みすぎちゃった。やっぱり、解いて調節した方がいいかな」 「いいえ、天ヶ崎先輩。それだけ頑張って編んだんです。久住先輩もそれは分かってくれると思いますよ」 「でも、使いづらくないかな?」 「大丈夫です。きっと久住先輩なら、素敵な使い方をしてくれると思います」 「え?」  ふふっと笑うちひろ。  ちひろはやっと冷めたお茶を飲みほすと、ゆっくり立ち上がる。 「それでは天ヶ崎先輩。これで失礼します」 「うん……ありがとうね」  ちひろはもう一度だけお辞儀をした後、部屋を後にした。  美琴がひちろの笑みの真意に気付くことはなかったが、しかし。  ようやく、マフラーを完成させる事が出来たのだった―― #終幕『長すぎラブ』  晩秋の朝は、今日も寒い。  冷気に晒された素肌から、寒さが浸漬(しんし)してくるようだ。 「…………」  無言で坂を登る姿は、本日も一人。  丘から吹きおろされる風は、障壁のように俺の一歩を拒んでくる。  それでも俺は三叉路に向かい、そこに待っていてくれる人の為に歩いた。  茉理が昨日、何を処してくれたかは知らない。  でも今日こそはそこに美琴が居てくれると、確信めいた予感があった。 「…………あ」  やがて辿り着く三叉路。  その声を上げたのはどちらが先だったか。  ……美琴はそこで、両手に息を吐きかけながら、待っていてくれた。 「お、おはよう」 「お……おう、おはよう」  慣れたはずの朝の挨拶が、妙に初々しい。  いつもならそこから自然に歩き出すはずなのに、今日はどちらも動き出そうとはしていなかった。  いや――そうする前に、言わなくてはいけない事があった。 「美琴、その……ごめん」 「あ、謝らなくてもいいよ。わたしが勝手に怒ってただけだし」  漠然と謝る俺に、はにかんで言う美琴。  普段じゃみれない美琴の表情が新鮮で、思わず頬が緩んでくる。  ……良かった。美琴と話ができて、仲直りできて、本当に良かった。 「わたしの方こそ、勝手に怒っててごめん。だ、だから、これあげるねっ」 「えっ?」  “ぶわさっ”  突然美琴の鞄から出て来たソレは、弧を描いて俺に巻き付く。  ふわりと首に触れるこの感触は―― 「これは……マフラー?」  それは見間違えるはずもなく、マフラーだった。  ただ語尾に疑問符がついてしまったのは、それが両手を広げても余るほど長かったせいだ。 「あはは……ちょっと長すぎて使いにくいよね……ごめん」 「あ、いや……そんな事ない。ありがとう、嬉しいよ」  編んできてくれたのに謝られるなんて心外だ。  それにこんなに長くなるまで、俺の為に編んでくれた。  そんな美琴の甲斐甲斐しさが、愛しさを伴って俺の胸を満たす。 「本当に? よかったっ」  そう言って笑う美琴の笑顔は、朝陽よりも眩しい。  そのまま抱きついてきそうな勢いで、美琴はラフにまかれたマフラーを正してくれる。  そして俺は――気付いてしまった。 「美琴、寒そうだな」 「えっ?」  そして俺は思い付いてしまった。  この長いマフラーを一番有効に使える、物凄く恥かしい使い方を。 「こうすれば、いいんだよ」  俺は一度マフラーを解くと、一端を美琴の首に巻き付ける。  そしてもう一端は、俺の首に。 「こ、これなら二人とも暖かい、だろ?」 「う、うんっ……そうだね」  流石にこれは恥かしいのか、美琴は少し俯いてしまう。  俺だってこれが恥かしいのは分かるけど……今日ぐらいはいいだろう。 「……そろそろ行こっか。遅刻しちゃうよ」 「おう」  手を繋いで、歩き出す。  相変わらず吹く風は冷たく、素肌を撫でては体温を掠め取っていく。  お互い恥かしくて会話もできず、二人の間にあるのはマフラーだけ。  それでも……これから先、どうなるか何て全く分からないけれど。  今年の冬は絶対に、今まで一番暖かい――                              <<...fin>>