■ 魔法使い記念撮影切ないほど
 
 
 
 
※この作品は、原作をまったく無視でかなりの壊れ系ギャグです。読まれる際は本当にお気をつけください。
 
 
 
 

 
 
 
 
 「マ、マジ狩る☆クラッシャーミラ狂由乃 お、お呼びとあらば そく参上!!・・・・・・うっうっ」
 「よっ、お似合いやで!」
 
 (こ、殺す!! い、いつか絶対ぶち殺す!!)
 
 上の心温まるやりとりは、由乃があるもの拾ったことから始まった。
 それは、リリアンから帰宅途中の帰り道。
 
 (ん、なんだろう、あれ?)
 
 由乃は、道端に細長い棒状のものがアスファルトの上に転がっているのを発見した。
 ひょい、と由乃はそれを手にとって見る。
 それは、あるものを連想させてくるようなシロモノだった。
 
 (これって、アレか? よく魔法少女とかが使うステッキってやつ?)
 
 そう、それはTVアニメとかにでてくる、いわゆる魔女っ娘の必須アイテムの一つであるステッキのような形状をしていた。
 
 (どこかこの辺の子が忘れて帰ったのかな? に、しても)
 
 懐かしい、由乃はそう思った。その水晶が先についたステッキを見ると、由乃が子供の時にはまった「マジカル少女ジンバブエ」を思い出させてくれる。
 
 マジカル少女ジンバブエとは由乃が小学校の時に好きだったアニメで、部族に代々伝わる魔法のステッキを盗み出したジンバブエがその力を使って悪の組織アパルトヘイトに正義の鉄槌を下す! というまあいわゆる普通の魔女っ娘ものだ。
 
 由乃としてはあのジンバブエの手段を選ばない狡猾さが大好きで、番組のテーマでもある「勝てば官軍」には大いに共感を感じたものだった。
 
 ただ、どうしてなのか5話ぐらいでいきなり何の前触れもなく番組が、やたらと自爆したがる敵幹部から親友であるシャロンちゃんを守るため戦うという、愛と友情をテーマにした「魔法少女マジカルテロル」になってしまった。(これもこれでおもしろかったが、やっぱり突然終わった)
 せっかく敵幹部の息子に取り入って、ひと時のラブロマンスを味あわせた後一片の容赦なく裏切ってパパもろとも地獄のどん底につき落とす、という展開が終わりを迎えていて楽しみにしてたのに、とても残念だったと記憶している。
 
 (あーあ、好きだったのになあー)
 
 本当にあの時は残念だった。お父さんに、どうしてジンバブエやってないの! って突っかかったぐらいだ。お父さんは、おとなには色々事情があるんだよ、って少しほっとした表情を浮べながら言っていた。
 幼かった時の由乃は、おとなの事情、とやらが分からなかったが、今なら分かる。お父さんはこういいたかったのだろう。
 
 (はあー、やっぱりスポンサー会社が倒産でもしたんだろうなー まったく世知辛い世の中ね)
 
 と、昔を振り返るのはそれぐらいにしておこう。由乃はステッキに意識を戻した。
 
 (たしかジンバブエって、こうだったっけ?)
 
 きょろきょろ
 
 由乃は周りに人がいないのを確認すると、右手に持っていたステッキを上にかざした。
 
 「ジンバブー ジンバブー 黒い神さま虐げられてるものに力を貸してくださいな よーし 今日も白ブタどもの悲鳴を上げさせちゃうぞ マジカル魔法少女ジンバブエ 気が向いたらそく参上!」
 
 くるくるくる
 
 その瞬間、由乃の体がピンクの光に包まれた。
 
 (なっ! なっ!) 
 
 そして、そのリボンのような光が消え去ると。
 
 「なんじゃこりゃー!!!」 
 
 そこにはえらいものが出現していた。
 
 「なっ、なんなのよこれ?! なんなのこの痛いコスチュームは?」
 
 その右手にはステッキを持ち。ひらひらのフリルのついたやたらと頭の悪そうな服を着た由乃の姿があった。
 
 「ちょっ、誰か説明しなさいよ!! 訳わかんないわよ!!」
 
 由乃がそう叫んだ時、それに答えるような声が由乃の頭に響いた。
 
 ナレーション
 (説明しよう! 島津由乃は今日から魔法少女になったのだ!)
 
 「ぜっ、全然説明になってねえぇぇー!! まっ、魔法少女ってなによ!?」
 
 由乃が混乱の度を極めているところに、背後から声が掛けられた。
 
 「そこから先は、わてが説明しましょ」
 「なっ!」
 
 由乃が振り向くと、そこにはクマのヌイグルミというか、タヌキの出来そこないみたいなのが2本足で突っ立っていた。
 
 「・・・・・・えっと、アンタ誰? つーか、何?」
 「ワシか、魔法の国から愛とムチと希望を伝えにきた、さすらいのケロル三等兵とはわしのことや。まあ、みなからは親しみを込めてサンペイと呼ばれとるで」
 「サ、サンペイ?」
 「あ、サンちゃんでもええよ」
 
 やばい、聞いてはだめだ。目の前で起きてることを幻聴という方面に追いやって、由乃はさっさと帰宅の路につくことにした。
 
 「あっ、ちょっと、待たんかい」
 
 幻聴だ。これは幻聴だ。
 たとえ、由乃がピンクのふりふりを着ていたとしてもこれは幻聴だ。
 だが、この幻聴はしつこかった
 
 「つれないなあ、今日からアンタの相棒になるっちゅうのに。あ、せや、お近づきの印にこれでもうけとってや、おっと」
 
 はらり
 
 その幻聴は、そういいいながら一枚の写真のようなものを落としている。
 
 !!!!!
 
 その写真に写ってるものを認識した時、由乃は凍りついた。
 その写真には、ドえらいものが写っていた。
 
 「こ、これは!!」
 「よく映ってるやろ。あんさんの変身シーンやで。ま、記念に一枚どうぞってやつや」
 
 そう、その写真にはピンクのヒラヒラをきている由乃の姿が写っていた。それだけでも人生を3回ほど繰り返してもお釣りがくるくらいの羞恥心満載なのに、さらにその写真の由乃は変身ポーズをとっているという、他人に見られたら自分が死ぬか見た相手を殺すしかない、という明るい未来図が目に見えるようなお宝映像だった。
 
 「うおおおおー!!!」
 
 びりびりびり!!
 
 間髪いれずに、由乃はその業にまみれた写真をこの世界から抹殺した。だが。 
 
 「あー、そのポーズは気に入らんかったか。なら、好きなもん選びなはれ」 
 
 目の前の何かはサービス精神満点に、ご丁寧にずらっと10枚ほど由乃の変身シーンがコマ送りになっている写真を並べてきた。
 
 「いや、わいってよく落し物をよくするんや。この前も、つい、うっかりと写真を落としてしもうてなー」
 「く、くううう!!」
 
 由乃は悟った。由乃が人としての大切な何かを失わずにすむかどうかは、この目の前のクリーチャーに握られたということが。
 
 「・・・・・・わ、私になにをさせたいの?」
 「話が早くて助かるで。何、悪い話やないで。あんさんの、魔法使いになりたい、ちゅう夢を人助けをしながら叶えられるのやから」
 「別に、魔法使いなんてなりたくないのだけど」
 
 かちゃ
 
 『ジー・・・ジンバブー ジンバブー 黒い神さま虐げられてるものに力を貸してくだ・・・』
 
 「なりたいです! なりたいと思ってました!! ですからテープを止めてください!!」
 「せやろ、人間やっぱり正直が一番やで」
 「ぐうううっ!!」
 
 由乃はあまりのことに歯軋りをした。だが、だめだ。ここで爆発したら。ヤツからなんとしてもブツを取り上げないと大変なことになってしまう。 
 
 (がっ、我慢よ、島津由乃。そう、臥薪嘗胆よ!)
 
 由乃は知識としては知っていても、自分自身一生使うことは使うことはないだろう四字熟語を頭に思い浮かべた。
 
 「じゃあ、話を続けさせておらうで」
 
 そう言って、サンペイは由乃に語りはじめてきた。
 
 「わては、魔法の国にある魔法を世界に促進させるための秘密企業組織「マジカル☆さいとう」(有)から派遣されてこの世界にやってきた、いわば企業戦士ってやつや」
 「マ、マジカル☆さいとう?」
 「せや、自分で言うのもなんやけど、向こうじゃ「マジカル☆たかお」(有)と唯一張れる組織やで」
 
 つっ込み所は満載だが、あまりまともに聞かない方がいいと判断した由乃は先を促すことにする。
 
 「で、そのサンペイさんはどういう理由で私を魔法少女にさせたいのかしら」
 「この世界に魔法を促進させるため、やな」
 「その、魔法を促進させる、の意味が分かんないんだけど?」
 「簡単に言えば、この世界とわてらの世界は微かにやが見えない線で繋がっとるんや。で、近いうちいつかは完全につながるっちゅうんがうちの学者さんたちの見解でな。ま、といっても10年後か、100年後かわからんのやけどな」
 
 そのあっさりと述べられた言葉に、由乃は目を大きく見開く。
 
 「つ、繋がんの? 私たちの世界とあんたたちの世界が?」
 「せや、いつになるかはっきりとは分からんがな」
 「で、でも、それと私が魔法少女になるのってどんな関係があるのよ!」
 
 由乃がそう言うと、サンペイは溜め息を一つついた。
 
 「一つ聞くが、あんさんはもしそうなったらどうなると思うんや」
 「ど、どうなるっていわれても」
 
 話をいきなりこっちに振られたので、由乃は面食らってしまった。
 
 「分からんか。じゃ、質問を変えるで、あんさんたちの文明は何によって成立してるんや?」
 
 私たちの文明?・・・・・・それは、間違いなく。
 
 「・・・・・・科学、かな」
 「せや、この世界は科学っちゅう力で成り立っている。で、わてらの世界は魔法で成りたっとるんや」
 「さっぱり話が見えないのだけど」
 
 サンペイの言葉の言いたいことわからず由乃がそう言うと、サンペイは人形の癖に器用に肩をすくめていた。
 
 「あんさんは、例えばやけど、今この瞬間から魔法の国が隣に引っ越してきました。今から魔法は常識の枠組みとしてください、なんていわれたらどう思うんや?」
 
 どう思う、といわれても。 
 それは、今、由乃が置かれている状況に近いのだろうか?
 
 「そりゃ、びっくりするというか、簡単に、はい、そうですか、と納得できないと言うか」
 
 由乃がそう言うと、サンペイはニヤリと笑っている。
 
 「せやろ、魔法と科学っちゅうもんはいわば水と油みたいなもんや。せやのに、いきなりずっと科学で文明を築いてきた世界に魔法っちゅう科学と相容れない世界が隣に引っ越してきたら、どうなるかは火を見るより明らかやで。ヘたすりゃ、戦争になるかもしれん」
 「せ、戦争って」
 
 言葉の意味としてはともかく、生活をしていく上で全く縁のないその言葉に由乃は実感が湧かなかった。
 
 「歴史っちゅうもんを紐解くと、戦争ちゅうもんは資源確保が目的とかのやつはともかく、相手に対する無理解、もしくは価値観の相違という感情的なことが発端となったんも多いんや。まあ、ただ支配欲に駆られて、っちゅうんも多いけどな」
 「だ、だからといってそう簡単に戦争なんて」
 「ま、確かにいきなりドンパチやらかす可能性は低いやろうけど、このままで繋がると揉めることは間違いないと思うで。だいたい・・・・・・」
 
 ここで、サンペイが少し顔を曇らせた。
 
 「・・・・・・あんさんがたの世界は、その前例があることやしな」
 
 (前例? そのようなもの、あっ)
 
 由乃が頭を巡らせていると、ある忌まわしき歴史上の出来事が頭に浮かんだ。 
 
 「・・・・・・ひょっとして、魔女狩りのこと」 
 「せや。ま、それだけやないけどな」
 「で、でもあのときは時代が時代だし。だいたいそのあとで、あの裁判は間違いでした、って発表されているじゃない」
 「殺されたあとに、そんなん言われても嬉しくないと思うけどな」
 「うっ、そりゃあまあ」
 「と、あんさんに文句言うのは筋違いやったな。結局、ワイが言いたいのは、この世界は科学で理解できないものは異端として扱われる、とうちの世界が結論したことなんや」
 
 由乃はなんとなくだが、サンペイの言いたいことが分かったような気がした。
 
 「つまり、このままではこの世界とサンペイの世界は仲良くできない、って言いたいの」
 
 由乃がそう言うと、サンペイは良くできました的な表情を浮かべている。
 
 「ぶっちゃけた話、その通りや。で、うちの世界のお偉いさん方はこう考えたんや、この世界に魔法が日常にあっても違和感がないようにゆっくりと魔法を浸透させる、と。そのためにある計画を発動させたんや」
 「どんな?」
 
 由乃がそう言うと、サンペイはにやっとして口を開いた。
 
 「聞いて驚きなはれ。その名も、人類魔女っ子化計画や!」
 「・・・・・・はい??」
 
 由乃は驚いた。
 いろんな意味で驚いた。
 今、こいつは何を言ったのだろう。
 人類? 魔女ッ子化? 計画? 単語の一つ一つの意味はわかる。だが、その3つをいっぺんにまとめると、とても正気とは思えない言葉になった。
 聞き間違いだろうか? いや、そうであって欲しい。
 
 「あの、もう一度言ってくんない?」
 「なんや、若いのに耳が遠いんやな。人類魔女っ子萌え化計画や」
 
 ・・・・・・気のせいだろうか? さらにもう一つ激しく聞き逃せない単語が増えたような気がする。
 
 「いったいそれは何をする計画なのよ?」
 「簡単なことや、罠にかかった、もとい選ばれた少女に魔法少女の力を与え魔法を世のため人のために使って、この世界の若者達に愛と希望と萌えを与えて魔法が存在することを当たり前と感じてもらい、これから10年、20年後にその彼らがこの世界をリードするころにうちらの世界の存在を明かして、お互いお互いを干渉しない対等の不可侵条約を結ぼうって計画や!」
 
 ふざけた計画名の割には意外とスケールがでかいし、なんとなくだが理に叶ってるような気もする。だが、萌えを与える、というところがよく分からなかった。
 
 「萌え、って何? 他のはなんとなく分かったけど」
 「何をいっとるんや、萌えこそがこの計画の一番のポイントなんやで!」
 
 力説されてしまった。もう、これでもかってくらい。
 
 「・・・・・・一番なの?」
 「電話は二番やで」
 
 いや、そんなん知らんて。
 まあいい。細かいことを言っても仕方がない、さっさと終わらせてとりあえずヤツが今握っている写真だけでもとり返そう。
 
 「まあいいわ。それじゃあ私は何をすればいいわけ?」
 「おっ、やっとその気になってくれたっちゅう訳やな。よっしゃ、なら今あんさんが握っとるステッキの説明からさせてもらうで」
 
 由乃は、自分の手に握られている呪いのアイテムを見つめる。
 
 「ステッキて、これ?」
 「せや、そのステッキはあることをしたら契約が発動する仕組みになってな。一度契約すると、その発動させたもんしか使えん仕組みになっとるんや。せやからこのステッキは、あんさん専用や」
 
 あること、その言葉に思わず由乃は身震いした。
 
 「あることって・・・・・・ひょっとしてアレ?」
 「せや、変身ポーズや。あのお約束のポーズが人前でできんと、魔法少女にはなれんからな。ま、ある意味、羞恥心をいかに克服するかが魔法少女になるための第一歩てとこやな」
 
 由乃は呪った。自分自身の軽率さを、マジカル魔法少女ジンバブエを、そしてこの目の前のクリーチャーを。
 
 「いや、なかなか自然に変身ポーズをとってくれる人間が少のうて困ってたとこやったんや。ルールで、ヤラセはあかん、ちゅうことになっとるしな」
 「・・・・・・どうして、やらせはだめなの?」
 「そりゃ、やってくれるかどうかも分からんのに、わてらの正体をうかつに明かすわけにもいかんし、だいたいワシらが求めとるんは、羞恥心を物ともせず自ら進んでポーズを取ってくれる強者やからな」
 
 (つ、つわもの)
 
 もうだめだ、耐えられそうにない。自分自身の自尊心を守るために由乃はさっさと話を進めることにした。
 
 「・・・・・・ちなみに、どうすれば魔法は使えるの」
 「いや、その点あんさんの変身ポーズは完璧やったで」
 「うっさいわ!! さっさと話を進めんかい!!」
 「お、おこらんでもええやないか、せっかく人が誉めとるのに」
 
 これ以上変身ポーズの話をしたら許さん、という由乃のおどしが効いたのか、サンペイはしぶしぶと説明を進めてくる。
 
 「じゃ、さっきの続きやけど、まず、このステッキの名前をつけてやってや」
 「な、名前なんているの?」
 
 サンペイが、呆れたような顔をしてきた。
 
 「なんや、せっかくこれから一緒にやっていく相棒に名前もやれんのかいな」
 「い、いや、そういうわけじゃないけど」
 
 由乃がそう言うと、さっきとはうって変わってサンペイは笑顔を由乃に向けてきた。
 
 「なら、ええ名前を付けてやってや。やり方は簡単や、○○ステッキて呼ぶだけでええんや」
 「え、ステッキは外せないの?」
 「せや、ステッキちゅう部分は彼らの体を表すもんやからうかつには変えれんのや。まあ、剣とかでも○○の剣とか、結局のところその存在の意味を表せとる言葉はついとるやろ」
 
 なるほど、人間で言うとステッキは苗字に当たる所なのかもしれない。少し違うかも知れないが、由乃はそういう風に納得した。
 
 「あ、でも、気いつけえや、一回名前を言ったらもうやり直しは利かんから」
 「わ、わかったわ」
 
 チャンスは、一回、か。
 
 まあ、あんまり長いこと一緒にいられないけど・・・・・・ていうかいたくないけど、こうなったら毒を食わらば皿屋敷だわ。
 
 (よし、これに決めた!)
 
 由乃はいくつか考えた名前の中で、一番魔法少女として王道の名前にすることにした。
 
 「やっぱり魔法少女と言えばこれね。いい、ステッキ。あんたの名前はマジカル。そう、マジカル☆ステッキよ!!」
 
 ぴかっ!!
 
 その瞬間、まるでそれに応えるかのように、ステッキの先端からまばゆい7色の光が放たれた。
 
 「きゃっ、なっ、何?」
 
 由乃が驚いていると、サンペイも由乃に負けず劣らず驚いたような声をあげてきた。 
 
 「いやあ、わしも何回か見てきたが、こんなに喜んだステッキを見るのははじめてやな」
 「よ、喜んでるの、これ?」
 「ああ、それだけは間違いないで。ステッキの輝きの強さが、感情のパラメーターちゅうわけやな」、
 
 喜んでる、そういわれると流石に由乃も悪い気はしなかった。
 
 (へえ、なんか、かわいいじゃない)
 
 あんまり長く付き合いたくはないけれど、仲良くやれるならそれに越したことはない。ひょっとしたら、見た目の痛さを除けばだが、案外楽しめるのかもしれない。
 しばらくすると、ステッキの輝きがようやく収まってきた。
 
 「せや、ステッキの先端についている水晶を見てみい。それで簡単な意思の疎通ができるで」
 「本当に!」
 
 やっぱり光るだけだと感情の起伏は分かったとしても、その感情が怒りなのか喜びなのかはっきりと分からない。たとえ簡単でも、ハッキリと意思の疎通が出来るのなら絶対にそっちの方がいい。
 由乃は嬉しくなって、ステッキの水晶の方に視線を向ける。
 そこには確かに日本語で文字が映し出されていた。
 
 あれ?
 
 「・・・・・・ねえ、サンペイ。一つ聞きたいのだけど?」
 「なんや、どうかしたんか?」
 「どうしてステッキの水晶に映し出された「マジカル」が、「マジ狩る」になってんの?」
 
 そう、そのステッキの水晶には「私の名 マジ狩る☆ステッキ ヨロ!」と、えらい表記がなされていた。
 
 「ん、なんか問題があるんかいな?」
 「大ありよ! 人が真面目に付けた名前、何トンデモ変換してんのよ、コイツ!!」
 「ああ、まあそう責めたるなや。こいつはわしと違って、日本語表記は苦手なんやから。ま、OSも古いし、仕様ってやつや」
 「ふっ、ふざけんなぁ!! さっさとバージョンアップしとけぇぇ!!」 
 
 ぴかっ ぴかっ ぴかっ
 
 由乃が怒りの咆哮をあげていると、ここでステッキが光を放ってきた。どうやら何かを訴えているみたいだ。
 
 (な、なんなのよ! ひょっとして、怒ってんの?・・・・・・言い過ぎたかしら?)
 
 由乃が少し反省しながら水晶を覗き込んで見ると、さっきまでと文字が変わっていた。
 そこには、こう書かれていた。
 
 「首領☆マイ ボス!」 
 
 「何が、首領(ドン)☆マイ ボス! じゃあ!! シャレを聞かせたつもりかぁ!!」
 
 狙ったのか偶然なのか、その駄洒落に由乃が怒りの突っ込みを入れているとき突然の突風が襲ってきた。
 
 びゅうぅー!
 
 その瞬間、
 
 はらり ひらひらひら
 
 「あ”」×2
 
 その突風によって、サンペイの手に握られていたものが大空高く舞い上がってるのが由乃の視界に入ってくるのが見える。
 
 (あ、あれは、まさか、まさかぁ!!)
 
 そう、それは紛れもなく、由乃のこれからの人生を素敵な方向に捻じ曲げてくれかねない例のブツだった。
 
 「ちょっ!! あ、あんた何してんのよ!!」
 
 だが、言われた方はサバサバとしていた。
 
 「いや、ま、不幸な事故っちゅうことで」
 「ふ、ふざけんなあ!! あれを他人に見らでもしたら、私の人生がエビゾリ140℃ぐらいまっとうな方向から歪んじゃうじゃないの!! な、なんとかしなさいよ!!」
 
 由乃が切羽詰ってそう言うと、サンペイがニヤリとした表情を浮かべてきた。
 
 「せや、ならちょうどええ機会や。あの舞い上がってる写真に向かってステッキをかざして適当でええから呪文を言った後、最後はマジ狩る☆ファイヤーと叫びなはれ。何、安心せい。自動ホーミングで全て焼き払ってくれるで」
 「・・・・・・マ、マジ狩る、って叫ばないといけないの?」 
 「当たり前やで。魔法ちゅうもんは、己のイメージを具現化するんや。そしてその思いを相棒であるステッキの名前を叫ぶことによってさらに増幅されステッキもそれに応える形で発動されるんや!」
 「くっ、わかったわよ!」
 
 正直、魔法を使うのは気が進まなかったし叫びたくもなかったが、背に腹は変えられない。由乃はステッキを握り締める。
 
 (た、頼むわよ、マジ狩る☆ステッキ!)
 
 ぴかっ ぴかっ ぴかっ
 
 まるで由乃の思いに応えるかのように、マジ狩る☆ステッキが光を放つ。 
 
 「逝け逝け☆轟々!」
 
 ・・・・・・応援してくれているのだとは思うけど、なんか素直に頷けなかった。
 
 (ま、まあいいわ。よし!)  
 
 由乃は気を取り直し狙いをさだめ、空に向かって大きく叫んだ。
 
 「わが人生をエビゾリさせてくれる悪しき存在よ、その報いをもって無にかえるがいい。マジ狩る☆ファイヤァァァァ!!」(ちょっとノリノリ)
 
 ブオオオォォー!!!
 
 次の瞬間、その宙に舞っている写真に向かって紅蓮の炎が激しく噴出した・・・・・・由乃の口から。
 
 (ちょっ、まっ、またんかいぃぃ!!)
 
 自分の口から激しく炎が噴出すという奇跡体験を体験した由乃は、慌てふためいてサンペイのほうに目を向ける。
 そのサンペイは、安心させるかのような笑顔を由乃に向けてくる。
 
 「ああ、安心せい。それは魔法の炎やから自分が焼けることはせえへんから」 
 「んーっ!! んーっ!!」(そういう問題じゃねえぇぇ!!!)
 
 ブォォォ!!・・・・・・ボォ・・・ォォ・・
 
 危険な写真を見事に焼き払ったあと、ようやく由乃の口から吐き出されていた炎が治まった。
 完全に炎が収まったことを確認すると、由乃は鋭い視線をサンペイに向ける。
 
 「・・・・・・ねえ、サンペイ?」
 「なんや、よっちゃん」
 「よっちゃんて誰やねん!! ていうか、なんでマジ狩る☆ファイヤーが私の口から吐き出されたのよ!」
 
 由乃がサンペイに詰め寄ると、サンペイからあっさりと答えが返ってきた。
 
 「ああ、あれは人によって変わるんや」
 
 由乃は、その言葉の意味がよく分からなかった。
 
 「・・・・・・人によって変わる??」
 「せや、魔法ちゅうもんはさっきも同じこといったけど一番大切なんはイメージなんや。使用者のイメージに合わせて、相棒のステッキが魔法を発動してくれるんや」
 
 ・・・・・て、いうことは、まさか!?
 
 サンペイの言葉の意味を確かめるため、由乃は口を震わせながらサンペイに問いただす。 
 
 「つ、つまり」 
 「さっきのは、ステッキの中でもあんさんの一番ピッタリのイメージっちゅうことや。いや、ワシも長いこと魔法少女みてきたけど、だいたい7〜8割ぐらいはステッキから発射で、残りはせいぜい利き腕ぐらいなんやけどな。まさか、口から炎を噴出すとは思いもせんかったで」
 
 (わ、私も思いもしなかったわよ!!)
 
 そのあまりにふざけた答えに、由乃の心は魂の叫びをあげながら相棒に問い詰める。
 
 「コ、コラ、マジ狩る!! 私のイメージは「口から炎」なんかい!!? 何とか言いなさいよ、マジ狩るぅ!! マ、マジ狩るぞ☆オラァ!!」
 
 ぴかっ ぴかっ ぴかっ
 
 その魂の慟哭に、マジ狩る☆ステッキはただ一言、
 
 「ベスト☆チョ椅子!」
 
 という素敵な文字を、その先端についた水晶に輝くように映し出していた。
 
 「ふ、ふざんけんなぁぁ!!! 何が、チョ椅子、だあぁぁ!!!」 
 
 由乃は怒りと悲しみに震えていると、どこからか悲鳴のような声が聞こえてくる。 
 
 「いやぁぁー!! だれかー!!」
 
 その叫びを耳にしたサンペイの目がキランと光った。
 
 「おっ、どうやら、マジ狩る☆クラッシャーミラ狂由乃の初出番みたいやで!」(にやり) 
 「なっ、何なのよ、そのふざけた魔法少女というより無法少女みたいな通り名はぁ!!」
 「いや、だって、ステッキがそう言っとるで」
 「なっ!?」
 
 由乃が驚いてステッキの水晶を覗いてみると、
 
 ぴかっ ぴかっ ぴかっ
 
 「ボスの名は マジ狩る☆クラッシャーミラ狂由乃 だよ!」
 
 と点滅していた。 
 
 ぷちん
 
 それを見て、由乃の中の何かが壊れた。
 
 「い、いや、いやだぁぁー!! こんなステッキとは一緒に出来ない、出来ないよぉ!! おうち帰るぅぅ!!」
 「なに、安心せい。写真とテープならまだまだいっぱいあるで。なんなら動画も見せたるで?」
 
 そういってサンペイがHDDカメラを構えた瞬間、見事にハモった二つの悲鳴が大空にこだました。
 
 「誰かぁぁ 助けてぇぇー!!」×2
 
 ぴかっ ぴかっ ぴかっ
 
 「ボス 私 そばに☆憑いてる!」
 「憑くなぁぁ!! あっちいけえぇぇ!!」
 
 ・・・・・・そして冒頭の、マジ狩る! な気分の由乃に戻る、もとい魔法少女デビューが幕を開けるのであった。
 
 「マ、マジ狩るぞ!!☆オラァァー!!!」
 
 終わり。
 
 

 
 
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